ギャル向けアパレルショップの初売りといえば、新年の恒例行事だ。参加したことはなくても、十代の少女たちがお年玉を握りしめて全力疾走し、目当てのショップの福袋をゲット、袋の中身を交換する光景を知る人は多いだろう。彼女たちが憧れるブランドで働く人たちは、きらきらしい見た目と裏腹に、年々、過酷な労働環境に追いやられている。ライターの森鷹久氏が、華やかなギャルファッションに身を包み働く彼女たちの実態に迫った。
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年末の慌ただしい日々の隙間にできた時間にお願いして、東京・渋谷にある、いわゆる「ギャル向けショップ」と呼ばれるアパレルブランドのマネージャー・真理亜さん(仮名)に会った。彼女は専門学校を卒業して以降、およそ10年間、現在の会社に勤務してきた。
近年では、安い海外製の製品やファストブランドの台頭により”ギャル向けブランド”の売れ行きは良いところでも横ばい、ほとんどは下がる一方だ。そんな状況の中、真理亜さん達を取り巻く就労環境もどんどん悪化している。
「元々”憧れて”来る人たちが多い世界です。時給は千円未満、サービス残業の雨あらし。売れ行きが悪いと買い取りを暗に迫られ、パワハラ、セクハラが少なくなかったのに、ここに来てさらに上から色々と要求される」
都市圏のフラッグシップショップならさておき、地方の店舗は近隣のコンビニと同程度、ほとんど最低賃金に迫るような低待遇。せめて残業代が支払われれば収入を上げられるが、賃金なしで強いられるサービス残業ではそれもままならない。お金がないのに、自社ブランドの服の買い取りを迫られる。
劣悪な環境なのは間違いないが、「おしゃれ」「かっこいい」というイメージが先行し、スタッフが辞めてもすぐに新しい人が入ってきて、人材が常に供給されるという状況。若い女性が頻繁に入れ替わるという特殊な環境だからだろうか、働きたいと集まる女性たちの間で過酷な実態が共有されるより前に新しい世代がやってくるという特殊な構図だ。求人に困らないからか、就職時に提示される労働条件が守られることはほぼない。
いざ働き始めると、営業1時間まえの出社もザラで、ポップを書いたり打ち合わせをしたり、営業時間後も棚の入れ替えやミーティング、時には反省文を書かされることもあり、膨大な時間外業務も強いられ、帰宅が終電近くになることもある。この時間外労働に対して賃金が発生することは、ほぼない。頑張って準備しても、売れ行きが悪ければ品物の買い取りを迫られ、普段着る服もショップのものばかりになってしまう。まさに、いつの間にか、生活の全てが”ショップ”を中心に回っている状況に陥ってしまうのだ。
年末年始は特に地獄だ。
「年末は冬のセールで声を枯らして接客をし終えると、そのままサービス残業で福袋作り。本社からダンボールで届くアイテムを、スタッフが仕分けし、時には数百個の福袋を準備する。初売りでも同じように声を枯らして接客し、客引きまがいのことまでやらないといけません。すぐに春夏モノの入れ替えが始まり、自分が着るための服も買わされる。私はマネージャーだから各店舗への応援に行かなければならず、繁忙期にはほぼ休みがありません」
少女たちが喉から手が出るほどほしがる福袋は、スタッフたちに強いられるサービス残業によって生み出されている。先日、有名アパレル商品の数々が、驚きの低賃金と休みがない外国人技能実習生によって製造されていることが明るみに出て、ネット上でも話題になったが、それらの品々を詰めて生み出される福袋も、日本人の若い女性らによる過酷な労働の産物だったのだ。
とはいえ、マネージャー職にある真理亜さんなら、ある程度は余裕がある収入ではないかとたずねると、なんと月に二十万円ジャスト。休みもなく働いてもこの金額はほとんど変わらない。そしてショップ店員だった時代のことを聞くと、十五万円に届くか届かないかといった具合だったという。
この収入から店のアイテムを買い、定まらない時間帯の勤務をこなす。起きている限り仕事をしているようなことも珍しくなく、自炊をする余裕も、節約のために生活必需品を安売りで手に入れる時間もない。慌ただしく三食をコンビニで済ませ……となると、手元にはたいした現金が残らない。化粧品や美容室代、ネイル代も「ブランドの顔」である真理亜さん達には必須で、切り詰められない。