天皇陛下の退位が2019年4月末に決定した。生前退位まで1年余。生前退位という「革新」が控える今、女性皇族を巡る「伝統」にどう向き合うのか。近著に『街場の天皇論』などがある、思想家、神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんが緊急提言する。
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天皇制という仕組みは、今現在も“生きている”システムです。固定されたものではなく、時代時代に合った形で変化していくべきものだと思っています。
私はそれを陛下ご自身の行動やお言葉から感じ取りました。かつて菊のカーテンの奥に鎮座していた時代から変わって、象徴的行為として各地を回って祈りを捧げられた。さらに、「お気持ち」を表明して、生前退位を実現させた。それは「憲法下での天皇制のあるべきかたち」は従うべき先例を持たず、それゆえいつも新しく創り出すべきものだと陛下が考えておられるからだと思います。
皇室は国民の生活のロールモデルとしての役割も期待されています。ですから、国民の家庭のかたちが変われば、皇室のかたちもそれにつれて変わる。あまりに隔絶してはモデルにならない。
代々続く老舗の店は、のれんを守るためにさまざまな工夫をしています。男系で継げない場合は、養子をとったり婿を迎え入れたりして工夫しているし、女性が経営を引き継ぐ例も珍しくありません。それが、一般市民の家督の継承の仕方です。そういう時代に皇室だけが男系の男子という決まりに執着していては、ロールモデルになりません。現代的な家族のかたちから遠く離れた皇室のあり方を国民は決して求めていないと思います。
そういった意味では、女性宮家や女性・女系天皇ということにまで裾野を広げていくことに私は何の違和感も持ちません。当然のことだと思う。
皇位は男系で連綿と受け継がれてきたといいますが、例えば第25代の武烈天皇から第26代の継体天皇の間では10親等離れています。今、そのような無理をおしてまで男系の万世一系を継ぐことを国民は望まないでしょう。
それならば、陛下のおそばでその謦咳(けいがい)に接して、陛下がこれまで何をされてきて、これから何を実現しようとされたのか、そのことを熟知し、その責務を受け継ぐ覚悟のある人に、男女にかかわらず、そのお気持ちが託されていくべきだと思います。
※女性セブン2018年1月4・11日号