「がん」も、70代になると「治そうとするべきか」という問いが生まれてくる。2017年4月、国立がん研究センターは75歳以上の肺・胃・大腸・乳がん患者を調査し、「抗がん剤を使用した人としていない人で生存率に大きな差がなかった」と発表した。
がん治療にかかる費用は少なくない。たとえば早期胃がんで内視鏡手術を受けた場合、年間の治療費総額は80万~90万円。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏はこういう。
「高額療養費制度を利用することで、最終的な自己負担額は8万円程度、75歳以上であればさらにその半額になるものの、治療費以外にかかる費用がかさみます。がんの種類やステージにもよりますが、一般的に手術をすれば2~3週間の入院が必要。個室に入れば最低でも1日5000円以上の出費となり、日用品や衣類、見舞いに来る家族の交通費など、治療費以外に年間50万円以上かかることもある」
もちろん、回復の見込みがあるなら、「カネの問題ではない」という話になるが、前述の国立がん研究センターの発表の通り、70代以上では治療が延命につながらないこともあるとわかってきた。そうなると、判断は変わってくる。
「75歳を過ぎると、抗がん剤の副作用に耐えられなくなってくる。手術は身体への負担が大きく、免疫力や身体の衰えから再発・転移のリスクもある。治療が長引くほど患者と家族の費用負担が増えることも踏まえて、高齢の患者には“切る”ことを勧めない医師もいます」(前出・室井氏)
※週刊ポスト2018年1月12・19日号