心臓機能が大幅に低下した場合、人工心臓か心臓移植が根本的な治療法となるが、人工心臓はまだリスクが高く、日本の移植ドナーは圧倒的に足りない。
そんな中で希望となるのが、大阪大学医学部心臓血管外科教授の澤芳樹氏らの研究グループが開発した「心筋シート」である。
シートの元となるのは、京都大学の山中伸弥教授らが作製したiPS細胞だ。この万能細胞を培養して心筋細胞に成長させた後、薄いシート状にして、心不全患者の心臓に数枚、貼り付ける。研究責任者である澤教授の話。
「心不全が重症化すると、心臓の細胞の多くが死んで心臓機能が衰えます。そこで心筋シートを貼り付けて心臓の細胞そのものを補充すると、移植した細胞が心筋として働くとともに、残っていた心臓の細胞も活性化するとみられています」
澤教授らはこれまでに、iPS細胞ではなく患者の足の筋肉の細胞を使った厚さ0.1mm、直径5cmほどの心筋シートを用いて、心不全患者数十人を治療してきた。iPS細胞を用いた心筋シートを使えば、より重篤な患者も治療できるようになるという。
「これまで動物実験を重ねてきてある程度の結果が出たので、今年からは実際に患者に移植する臨床研究を始める見込みです。まずは既存の人工心臓などと組み合わせることで、少しでも多くの患者を救えるようにしたい」(同前)
※週刊ポスト2018年1月12・19日号