テレビが政治を動かし、時代を動かす──そんな番組は、『ニュースステーション』(テレビ朝日系)以降ない。なぜそれほどの影響力を持ち得たのか、今のテレビとは何が違うのか。初の自伝『久米宏です。ニュースステーションはザ・ベストテンだった』を刊行した久米宏氏が、自身の半生を振り返りながら、「テレビ論」を語り尽くした。
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『ニュースステーション』は1985年の秋に始まったんですけど、その年のゴールデンウィークに、僕は倉本聰さんの富良野塾にいました。『ニュースステーション』のキャスティングについて倉本さんに相談したかったからです。
ただ、『ニュースステーション』が始まることは極秘事項だったので、「テレビでワイドショーをやるとしたら、キャスティングはどのように決めていけばいいでしょうか?」という感じでうかがったと思います。
倉本聰さんのお考えは「みんなが同じ方向を向かない方がいい」というものでした。趣味嗜好がバラバラな人間たち、個人の意見を持つ独立した人間たちがたまたまスタジオに集まった方がリアルだろう、と。つまり、社会の縮図です。
なるほどと思った僕は番組に緊張感を持ち込もうとした。僕の言うことに小宮悦子はノーと言うとか、中継レポーターの若林正人さんも僕の言うことを全然聞かないとか。
ふだんは小宮悦子と呼び捨てにしている僕が、たまに「悦ちゃん」と呼んだのはわざとです。「もしかしたら、あの二人は何かあるんじゃないか?」と勘ぐってくれる人が100人に1人でもいてくれたらいいな、と思った。