2席目はケチな父親が3兄弟の誰に身代を譲るか決めるために「私が死んだらどんな葬式を出す?」とそれぞれに訊く『片棒』で、これがまた全編オリジナル・ギャグの嵐。後ろ指を指されたくないので盛大な弔いを出すという長男の「喪服の愛人役87人を電柱の陰に立たせる」「ガンジス川に散骨するツアーを組む」等のバカバカしい発想、「モチーフは祭」という次男の軽薄さ、三男の徹底したドケチぶりのすべてが規格外だ。
3席目の『宿屋の富』は古今亭の型で、主人公のホラ話にも独自のギャグが目立ったが、一段と面白いのが千両富の当日のワイワイガヤガヤ。「千両当たりたくて賽銭を千両以上払ったのに富くじを買い忘れた男」には爆笑した。「五百両当たったら女を身請けする」という男の妄想の御膳に必ずキムチが乗ってるのも可笑しい。
暴風雨にめげずに来てよかったと大満足の3席。夢空間主催の独演会、次は「5月の萬橘」になるそうだ。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年1月12・19日号