退屈すぎて社員にすら読まれていない──会社の歴史が書かれた「社史」のイメージは、見事に覆される。社史編纂に会社を挙げて取り組み、見応え、読み応えのある社史を作った企業がいくつも存在するのだ。
日本最大の社史コレクションを誇る神奈川県立川崎図書館で社史の活用に力を入れてきた司書(科学情報課)の高田高史氏が、社内にとどめておくにはもったいない、名作社史を紹介する。
JAL(日本航空)の『日本航空社史 1971~1981』は、同時期の航空輸送業の現実を忠実に記録している。
「国際線進出と日本航空株式会社法」の章では国際路線の増加を記し、「空港反対の諸動向」の章では成田の反対運動を取り上げ〈容易ならざる状況となった〉とも書く。
半官半民のナショナルフラッグ・キャリアとして設立されたJALらしく、一航空会社を超えた“日本国代表”としての矜恃がにじみ出ている。
一方、ヘリコプター輸送から始まったANA(全日本空輸)の社史は、「挑戦」という創業精神を表現している。
『大空へ 二十年』という20年史の編集後記には〈編集内容のトーンを、私の主観によって、かなり偏った色に染めました〉と記されている。ヘリコプターからぶら下がる女性の「太もも」が大胆に露出したカットや水着写真も盛り込まれている。
かつて航空業界では“JALは真面目な長男、ANAはやんちゃな次男”と評されたが、兄弟の性格は社史にも表われている。
※週刊ポスト2018年1月12・19日号