総務省の調査によると、2016年のモバイル端末普及率は過去最高の83.6%を記録した。電子書籍の市場規模も年々拡大し、デジタル化が進む一方で、アナログの極みである手帳の人気は衰えを知らない。現在、国内で販売される手帳は1年に1億冊といわれている。使われ続ける理由は、各界の人気者たちの手帳の中にあった。
「スケジュールを管理するだけならばスマホの方が断然便利です。だけど、アイディアをメモするときは手書きでないとどうしても頭が働かない。手を動かして文字を書くうちに、頭の中が整理されてくる。私にとって手帳とは、脳の外部装置のようなもの」
そう話すのは作家の岩崎夏海さん(49才)。常に手帳を持ち歩き、思いついた企画やアイディアを書き留めておく。
「ひらめいたことを、簡易企画書としてその場で相手に渡せるよう、ミシン目のついたノートを使っています」(岩崎さん)
岩崎氏のベストセラー小説『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(ダイヤモンド社)も手帳の中から生まれた。
「野球のルールに興味を持って手帳に書いているうちに、『もしドラ』の筋書きを思いついた。いざ、小説にしようと思ったときも、まずは冒頭を手帳に書いてみることから始めたことを覚えています」(岩崎さん)
永六輔さん(享年83)もまた常に手帳を持ち歩いていたという。永六輔さんの孫・拓実さん(21才)の目には、どこへ行くにも荷物が少なくて身軽なのに、手帳は必ず持っていた祖父の姿が焼きついている。
「毎年、銀座の鳩居堂で無地のノートを買って、日付からすべて手書きでオリジナルの手帳を作っていました。一緒にいるときも、わからないことや気になったことがあればすぐに開いて書き込んでいました。ぼくが何気なく、『これはどういう意味?』と聞くと、『調べておくね』とその場で書き留めて、後からFAXで答えが送られて来たこともあった。華やかな場所に身を置きながら、酒もたばこも賭け事もやらなかった祖父の几帳面さや真面目さが手帳からも伝わってきます」(永拓実さん)
4コマ漫画界の巨匠・植田まさしさん(70才)が手帳代わりに使うアイディアノートは通算500冊目に突入した。
「年間1100本以上の4コマ漫画を描いているから、毎日ネタ出しをしないと間に合わない。だから散歩のついでに面白いことを思いついたら…なんて生ぬるい気持ちじゃできません。白紙のノートを前に、よーし! と気合を入れ、とにかく手を動かす。鉛筆で絵やセリフを描き続けていると、思いも寄らなかったアイディアが浮かびます」(植田さん)
ノートにはネタだけを書き込み、スケジュールはカレンダーで管理している。
「毎日締め切りがある暮らしを?年間続けているから、書くのは検診などちょっとした予定だけ。『締め切りに追われて大変そう』と思われるかもしれませんが、むしろありがたい。いつでもいいからって言われると、1年も2年も仕上がらないから(笑い)」(植田さん)
※女性セブン2018年1月18・25日号