朝8時を過ぎた頃、両国国技館では新人力士たちによる“前相撲”が始まっていた。普段、観客の入りはまばらだが、1月14日から始まった初場所では異変が起きている。
「早朝にもかかわらず、約300人の相撲ファンが押し寄せていたんです。これは前代未聞の出来事ではないでしょうか」(観戦したファン)
昭和の名横綱・大鵬を祖父に、史上初の幕尻優勝を成し遂げた元関脇・貴闘力を父に持つ、角界のサラブレッド・納谷(17才)がデビューを果たしたからだ。
身長188cm、体重166kgという恵まれた体を生かし、前相撲では3連勝。1月19日の祖父の命日には新序出世一番乗りを決め、出世披露では大鵬の現役時代の化粧まわしを着けて登場。祖父には遺影に手を合わせ、「前相撲で勝って、番付に載ります」と報告したという。
『知られざる大鵬』の著者で“スー女”でもある佐藤祥子さんは、納谷の非凡な才能をこう評価する。
「ひたすら前に出る正攻法の押し相撲で、すでに三階級上の幕下の実力があるのではないかとの声も上がっています。祖父から譲り受けた大柄で色白の体に父を思わせる引き締まった端正な顔つきも魅力的です」
◆相撲は父親譲り
祖父である大鵬は、昭和を代表する大横綱。1960年に新入幕した翌年、異例のスピードで第48代横綱に昇進。優勝32回と、2015年に白鵬に抜かれるまで44年間、歴代最多優勝記録を守り続けた。
大鵬の圧倒的な強さは、相撲ファンのみならず、大衆の心をわしづかみにし国民的な人気を博した。当時の子供たちの好きなものを並べた「巨人・大鵬・卵焼き」という言葉は流行語となるほどだった。
その大鵬の三女と結婚した父・貴闘力は、若貴兄弟とともに、二子山部屋の全盛期を支えた名力士だった。番付こそ関脇止まりだったが、彼の強く激しい相撲は見る者を圧倒し、敢闘賞を史上最多の10度受賞している。そんな偉大な祖父と父の背中を見て育ったのが、納谷だ。
しかし大鵬は惜しまれつつも2013年に72才で他界。貴闘力は2010年、野球賭博への関与が原因で相撲界を追われてしまう。輝かしい実績を誇る祖父や父から、納谷が現在、直接薫陶を受けることは叶わない。しかし、その心の中には常に祖父と父の姿がある。現在も納谷が通っている埼玉栄高校相撲部の山田道紀監督が明かす。