2017年12月23日、大阪・寝屋川市の住宅で柿元愛里さん(享年33)が遺体で発見された。発見時の体重は19kg。自宅敷地内のプレハブ小屋に監禁されるような状態だった。この小屋は簡易トイレと給水タンクを備えただけのわずか2畳半の空間で、二重扉で仕切られ、中からは開けられない仕組みになっていた。監禁と保護責任者遺棄致死罪で父親の泰孝容疑者(55才)、母親の由加里容疑者(53才)が逮捕。愛里さんは15才の頃に精神疾患が発症し、暴れまわって危害を加えたり、自傷行為があったりしたため、療養目的で監禁していたという。
現在、精神疾患患者を医療機関に入院させる手段は、「誰が同意するか」の違いによって大別される。
患者本人が同意する「任意入院」、患者もしくは家族のいずれかが同意する「医療保護入院」、患者と家族の同意が必要なく、2人以上の精神保健指定医が必要と認めた場合に行われる「措置入院」の3種類である。
多くの精神疾患患者は入院を頑なに拒むため任意入院は極めて難しく、医療保護入院か措置入院となるケースがほとんどだ。
もし愛里さんが早い段階で医療機関に入院していたら、本人も家族も救われたのだろうか──。
この問いに、「安易にイエスとは言えない」と話すのは、精神疾患や薬物依存治療の問題に詳しいジャーナリストの石丸元章氏だ。
「一般的に精神科病院には開放病棟と閉鎖病棟があります。入院患者のなかでもとりわけ重病者が入る閉鎖病棟は、出入り口が固く施錠されていて病棟の外に自由に出られないうえ、常時監視されています」(石丸氏)
過去に薬物依存の治療で精神科病院に入院したことのある石丸氏によれば、日本の閉鎖病棟は、愛里さんが過ごした“小屋”と変わらないという。
「病棟内の強化ガラスの窓はわずかな隙間までチェーンでグルグル巻きにされていて、ベランダには鉄の網がかかっていた。要するに監獄と同じです」(石丸氏)
◆人間の尊厳は感じられなかった
基本的に病室は相部屋だが、暴力や器物破損、自殺などの恐れがある患者は、「保護室」と呼ばれる個室に入れられる。この保護室こそ、“精神科病院のブラックボックス”と称される部屋である。
例えば都内のある閉鎖病棟の場合、5畳ほどの個室にあるのは簡易トイレとベッドのみ。扉には鉄格子や強化窓ガラスがはめられ、出入り口にドアノブはない。トイレにも仕切りがなく、天井にある監視カメラで24時間監視される。
患者が紙をのんで自殺するのを防ぐためトイレットペーパーは1回分しか常備されず、水も自分で流せない。用を足すたびに看護師を呼ぶか、監視者が室外にあるスイッチを押す必要がある。
入院患者の治療は薬物投与が基本となるが、患者が暴れることを防ぐため、過剰な精神安定剤を投与するケースが目立つという。