国内

愛犬と暮らす家族が要介護になったら犬はどうなるか

N記者の母の愛犬モモちゃん

 認知症と診断された母(83才)が乗り越えなければならなかった大きな壁の1つが、愛犬“モモちゃん”との別れだ、とN記者(54才)は語る。その後の生活を考え、母も納得した上での苦渋の選択ではあったが、家族としても今なお、ズキンと心が痛むという。

 * * *
「もう、モモちゃんをお店に返そうかしら…」

 父が逝って約1年後の2014年、母(当時79才)の混乱はピークに達していた。

 部屋はゴミ屋敷寸前。愛犬モモが遊んで物は散乱し、尿がにおう。それでも毎日の散歩は欠かさず、界隈で“モモちゃんのおばさん”と呼ばれると、うれしそうだった。

 モモとの出会いはこの3年前。両親の買い物につきあって行ったホームセンター内のペットショップに、生後1か月のマルチーズがいた。愛想なく眠気まなこの子犬に目を留めたのは母。長い団地住まいでペットは飼えなかったが、昔はよく見かけた野良犬に好かれ、自分は犬と心が通じ合うのだとよく言っていた。そういえば母は戌年生まれだ。

「この子を飼いたいわ」と母が言うと、父は即、賛同。このとき一瞬、不安がよぎった。

 当時、まだ確信はなかったが、両親はたぶん認知症だ。犬など飼って、果たしてこの先、面倒が見られるのか…。が、ウキウキと幸せそうな両親の姿に、その不安もまた、一瞬で掻き消された。

 “モモ”と名づけられ、家族に加わった。父はカメラで成長を追い、母はかいがいしく世話を焼いた。一緒に旅行もし、犬が楽しそうな表情をするのも初めて見た。離れて暮らす私にとってもモモは家族同然となり、だーい好きだった。

 だが、不安は現実となった。「モモを手放す」と母が言い出したのは意外だった。健脚とはいえ、元気な子犬の散歩はきつかったのか、混乱したときにまとわりつかれるのが煩わしかったのか。

 ともかく店に返すわけにはいかない。私の家でも飼えない。当時探していた母の新居に連れて行けば母の生活は犬に縛られ、トラブルは必至。始末はすべて私の責任となり、きっと寛容ではいられない。母を最期まで支えるため、これ以上楽観はできなかった。

 友人にも依頼しつつ、インターネットで里親探しを始めた。高齢者が飼えなくなったペット悲話が溢れ、後ろめたさに胸が締めつけられた。最初の里親候補一家とのお見合いには、母も同行した。母はよそいきのブラウスとネックレスで着飾っていた。

 「モモちゃんはとてもいい子なんです。よろしくお願いいたします」と、仰々しく挨拶。「わかっているんだ…」と、安堵と悲しみが胸を衝いた。

 2週間ほどお試しでお見合い先に預けてみたが、先住犬と相性が悪く失敗。その後何組かとやりとりし、これはと思う家族に再見合い先を決めた。「決まる」と直感したため、母を連れていくのをやめた。

 話だけはしたが、母は言葉少なに無関心を装った。あるいはボケたふりだったか。直感通り、お見合いは成功。先方にもマルチーズがいて飼育歴10年のベテラン。私と同年代の夫妻で安心した。あれから3年、記憶障害もさらに進行中の母だが、今も会うたび私にこう聞く。

「ところで、モモちゃんはどこに行ったんだっけ?」

※女性セブン2018年2月8日号

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
暴力団幹部たちが熱心に取り組む若見えの工夫 ネイルサロンに通い、にんにく注射も 「プラセンタ注射はみんな打ってる」
NEWSポストセブン
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン