今や生涯で2人に1人ががんになるといわれる時代。悲しいことにがんは私たちにとって身近な病気となり、2016年には約37万人ががんによって命を落としている(国立がん研究センター統計)。
その一方、がんの治療技術は日進月歩で進んでいる。治療から5年、10年経っても再発せずに寛解、完治にいたる人が増えているだけでなく、治療を続けながら日常生活を送る人も少なくない。
その差はどこにあるのか。鍵となるのが、昨年秋に国立がん研究センターが公表した全国のがん患者数や罹患率の集計結果(2013年)。合わせて地域差を示す各都道府県別のデータも発表されているが、なかでも注目したいのは、「IM比」(『がんに罹った患者数』÷『死亡数』)を基に算出された都道府県ごとのがん別の“生存率”だ。
国立がん研究センターの全国がん登録室長・松田智大先生が解説する。
「IM比は国際的に、生存率の代わりに用いられることがある数値で、値が大きいほどがんになっても亡くなりにくく、低いほど亡くなりやすいことを意味します。“がんに罹っても生きているかどうか”を示す数値です。早期発見され、病院で適切な治療を受けているほど値が大きくなりやすいといえます」(松田先生、以下「」内同)
“がんになりやすい・なりにくい”ということについての分析は「食生活」や「生活習慣」、「他に大きな病気に罹ったことがあるかどうか」や「細菌・ウイルス感染の有無」などが挙げられているが“がんになっても死なない”ためにはどんなことが関係しているのか。
「喫煙率の高さや肥満傾向などは、がんに罹患するかどうかという点でも重要なポイントですが、罹患した後も見過ごすことはできません。肥満などから罹る生活習慣病など持病があれば治療の選択肢が狭まったり、飲酒などの影響でがん以外の病気に罹ればその治療で体力を奪われてしまいます。そうしたデータを踏まえ、病院数や医師数など治療環境まで含めた多角的な分析を進めています」
IM比が高い都道府県を見ることで“生存率が高くなる”ヒントが見えてくる貴重なデータであることは間違いないが、気をつけたいのは現在、精度向上のための取り組み途上にあるということ。
「がん罹患の届け出が義務化されたのは2013年のこと。死亡届はそれ以前から義務化されていましたが、罹患の届け出がされていないと当然IM比にも影響しますし、精度は落ちてしまいます。また、転院などで病院が変わった場合に二重登録の可能性があるなど、まだ数値の正確性はそこまで高くないのが実状です」
◆胃がん、大腸がん、乳がんのIM比、上位5県と下位5県
男女の罹患数トップである「胃がん」のIM比全国推計値は2.46。都道府県別に見ると、京都府(3.02)、広島県(2.99)、宮城県(2.78)、鳥取県(2.75)、熊本県(2.73)が上位5県で、下位5県は山梨県(2.06)、愛知県(2.01)、徳島県(1.98)、茨城県(1.94)、青森県(1.89)となっている。