厚生労働省は「過労死ライン」を残業月80時間と定めているが、昨今それをはるかに上回る医師の過酷な勤務実態が次々と明らかになっている。1月13日、東京・渋谷の日赤医療センターで医師の残業時間を「過労死ライン」の2倍にあたる月200時間まで容認する労使協定を結んでいたことが発覚した。
1週間後の1月20日、東京・三鷹の杏林大学医学部付属病院でも複数の医師が労使協定を超える残業をさせられていたとして、昨年10月に三鷹労働基準監督署から是正勧告と改善指導を受けていたことが明らかになった。約700人の医師のうち約2%が「過労死ライン超」の残業をしていたという。
ほかにも北里大学病院、藤田保健衛生大学病院、国立循環器病研究センター、札幌医科大学病院など全国の病院で医師の長時間労働やずさんな労務管理が指摘されている。
◆30時間連続勤務も珍しくない
NPO医療制度研究会副理事長の本田宏医師は、「これは氷山の一角」と指摘する。
「慢性的な医師不足と高齢化による患者激増により、医師は重労働になる一方。世界のなかでも日本の医師の労働環境は最低レベルです」
これまで人命を守る医師は聖職者とみなされ、その使命感から労働条件は度外視されてきた。だが大手広告代理店・電通の新入社員高橋まつりさんが2015年に過労自殺した件で社会の意識は変わりつつある。安倍政権が「働き方改革」を掲げたこともあり、医師の働き方にもスポットが当たり始めた。
医師でジャーナリストの森田豊さんは、「多くの医師は過労死ラインを超えて働いている」と話す。
「日本の病院では長時間労働が常態化していて、朝8時に出勤後、外来診察、当直をこなした後、そのまま再び日勤に突入して、30時間を超える連続勤務となることも珍しくありません」
人間は24時間睡眠しないと飲酒でほろ酔いになったのと同じ程度に判断力が低下するといわれている。医師の激務で最も危惧されるのは「医療ミス」の発生だ。病院経営に詳しい医療サービスアドバイザーの武田哲男さんが指摘する。
「医療ミスの多くは、医療従事者の疲労による注意力や判断力の低下から生じる『ヒューマンエラー』です。頭がボーッとした状態で医療行為を行うと、誤診したりカルテを間違えたりする。実際に激務で疲弊した医師が乳がんの手術で右と左の胸を間違えたなどの実例がある。医師の労働環境はわれわれの命に直結する重大な問題です」
勤務医の労働組合である全国医師ユニオンが勤務医1800人に行った「勤務医労働実態調査2017」によると、医療過誤の原因のトップは「医療スタッフ同士のコミュニケーション不足」で以下、「慢性疲労による注意力不足」「医療スタッフの人員不足」と疲労や人手不足をあげる回答が続く。当直明けの翌日勤務については、約8割が「集中力や判断力の低下」を認め、その際実際にミスが増えたと答えた医師は約3割に達した。
欧米では過重労働と医療ミスの関係性が認められており、医師の長時間勤務は規制されているが、日本は前述の通り、医師の過重労働がまかり通っている。
※女性セブン2018年2月15日号