東京オリンピックを2年後に控えて、大画面・高画質のテレビが次々と開発され、売り場を賑わせている。しかし、それらを凌駕する新しい映像技術を用いたテレビが開発された。家電業界を30年以上にわたって取材するノンフィクション作家の立石泰則氏がレポートする。
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久々にテレビ市場が活況を呈している。
2011年の地デジ放送移行のためアナログ放送が停止され、一挙にデジタルテレビが普及したが、7年から8年といわれるテレビの寿命期を迎え、買い替えへの期待が高まっているからだ。しかも2020年の東京オリンピックの開催まであと2年。
家電量販店のテレビ売場では、大画面で高画質を謳った新しいテレビが所狭しと展示されている。それまでのHDよりも約4倍も高精細な画面の4Kテレビ、ディスプレイも液晶から有機ELへ、さらに従来よりも100倍の明るさを誇るHDR(ハイダイナミックレンジ)対応の映像、といった具合だ。
東京オリンピックを「4KHDR」の大画面で高画質なテレビで楽しみましょう、というわけである。
そのような流れに棹さすかのように、こちらこそが「新しいテレビ」だといわんばかりに名乗りを挙げたのが、約20名の小さな研究機関「アイキューブド(I3)研究所」(本社、東京・世田谷)である。所長の近藤哲二郎氏は、ソニー時代からテレビの高画質化に取り組み、独立後も2年に1度の割合で新しい映像技術を開発し続けていた。
しかしこの小さな研究所が世界トップレベルの映像技術(信号処理技術)を持っていることは、社会ではあまり知られていない。
I3研究所は1月26日、それまで開発してきたデジタル高画質技術の集大成である「S-Vision」と呼ぶ新しい映像システムを発表した。しかも技術の研究開発が専門にもかかわらず、S-Visionを登載した4K対応ブルーレイ(BD)プレーヤーまで作っていた。
近藤氏によれば、従来のテレビはその名の通り「遠く(Tele)」にあるものを自分の近くに再現する「映像(Vision)」であるのに対し、S-Visionは私たちが普段見ている風景を同じように感じとれるようにした映像なのだという。つまり、その場に居るような感覚をもたらす映像なのである。
そして近藤氏は、百聞は一見にしかずとS-Visionのデモを始めたのだった。