2020年に予定されている大学入試改革によって、日本の受験界に激震が走っている。文科省は次世代の日本人に求められる力を「自ら課題を見出し問題を解決する力」とし、高校・大学の教育課程を全面的に見直す。その一環として、現行のマークシート主体のセンター試験が廃止され、新たに「大学入試共通テスト」が導入される。これまでにはなかった記述式のテストが国数で導入され、英語に関しては「聞く」「読む」に加え「話す」「書く」の4技能評価となり、試験の外部委託も予定されている。
2年後に迫ったこの改革にあたって今、“中学受験”に注目が集まっている。中高一貫校、なかでも難関私大の附属中学校の受験倍率はここ数年、全体的に大きく上昇している。NHKおはよう日本でも取り上げられた中学受験塾を舞台にした漫画作品『二月の勝者-絶対合格の教室-』(小学館ビッグコミックスピリッツ連載)の作者で漫画家の高瀬志帆氏にその理由を聞いた。
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──中学受験がひと際、熱を帯びてきているように見えます。
高瀬:「大学受験」と聞くと遠い未来に感じるかも知れませんが、現小6生はこの新テスト導入後の世代。決して遠い未来の話ではないのです。既に新テストの記述式問題のモデル問題が公開されており、公立高校でプレテストを実施したところ、ある生徒は「今の学校の授業だけではこの問題は解けない」と。
高校の3年間だけで、果たしてこの新テストに対策がしきれるのか、という不安に対して、すでに多くの私立中学は、中高一貫の6年間でこの新テストに準備することを表明しています。変革への不安と、一貫教育への期待から、注目が高まっているのではないでしょうか。
──中高一貫校は増加の一途です。
高瀬:ただ、高校募集をやめた学校が増加しています。いわゆる“御三家”も、高校から入れるのは男女6校中開成の1校のみです。私立だけでなく、公立の中高一貫校も増加しており、首都圏に22校あります。親が高校から通っていた母校が、今は中高一貫になっていて高校受験できない、というケースは意外と多いんじゃないでしょうか。親の世代が受験した時代と較べて、選択肢は減っていると思います。
──難関私大の附属中学校の倍率が大きく上昇しています。平均すると4倍から7倍の狭き門と言われています。
高瀬:2015年、文科省は定員を上回る私大への補助金カットの方針を打ち出しました。首都圏に学生が集中している状況を打開するためのものです。2016年から段階的に定員超過数が厳格化されてきており、特に難関私立大学の合格者数はすでに大幅に削減されています。
早稲田・明治・青学に至っては一昨年(2016年)と前年(2017年)で各2000人超の削減。難関私大全体で1万人超の削減となっています。この合格者数減を受け、大学受験を避け、附属中から入る動きが加速し、その結果難関私学附属校は軒並み倍率が上昇しています。実際に、厳格化が開始された2016年と較べて今年2018年の倍率は、慶應義塾中等部は6.5倍から7.3倍に上昇。明治大学付属中野八王子中学に至っては2.3倍から4.3倍に急上昇しています。難関私大附属中学全体で、平均して1ポイントから1.5ポイント上昇しているのです。
──『二月の勝者』の舞台は中学受験塾ですね。
高瀬:中学受験は、義務教育だけで合格するのはかなり困難です。ほとんどの子どもは4年生から、遅くとも6年生の春から中学受験塾に通います。本書で中学受験塾を舞台にしたのは、中学受験を親子のドラマとしてだけ描くのではなく、それを主に支える塾業界、その職業にスポットを当てたかったからです。
親が子どもの将来を真剣に考えた結果として中学受験を選んだ事情。そして子どもにとっても自分ごとになってからの真剣な気持ちや努力。それを支える塾。世間一般のイメージとは違い、大人のエゴだけではない、“二月の勝者”となるためのそれぞれの真剣な闘いがそこにあります。