【著者に訊け】宮下洋一さん/『安楽死を遂げるまで』/小学館/1728円
【本の内容】
〈「私はあなたに点滴の針を入れ、ストッパーのロールを手首に着けました。あなたがそのロールを開くことで、何が起こるか分かっていますか」/「はい、私は死ぬのです」/「ドリス、心の用意ができたら、いつ開けても構いませんよ」〉──本書冒頭に出てくる英国人老婦と女性医師の最期の会話だ。著者はその一部始終を間近で見届ける。各国で2年にわたって「安楽死の瞬間」に立ち会った衝撃の取材の果てに何が見えるのか。
あす、自らの意思で死ぬ人に会って話を聞く。本書は、安楽死を遂げる人々が率直にその心境を語る、類例のない本である。
宮下洋一さんは、英語、スペイン語など5か国語を話す語学力を武器に、スペイン・バルセロナを拠点に取材活動を続けるジャーナリストである。この本では、安楽死が選択できる、スイス、オランダ、ベルギー、アメリカ(注・一部の州)と、安楽死が許されないスペイン、日本の現場を訪ねた。
「あす死ぬ人にアポを取って話を聞くなんて絶対、無理なんじゃないかと思ったんですが、スイスの自殺幇助団体『ライフサークル』の代表で医師のプライシックさんと知り合い、彼女が患者に説明、理解した患者からメールをもらう、という形で取材を許されました」
自分の死の瞬間に立ち会うことを許した81才のがん患者の女性は、「私の死について、たくさんの人たちに考えてもらえたら嬉しいわ」と宮下さんに語った。安楽死への批判もあるなか、意見が分かれるテーマだからこそ、自身の考えを語っておきたい気持ちがあったようだ。
ひとくちに安楽死といっても、さまざまな事例がある。スイスでは患者自身が点滴のストッパーを開けるが、オランダでは医師が薬剤を注射して死なせるそう。精神的な辛さから死を選ぶ人もいる。安楽死を認めていないスペインでは、映画『海を飛ぶ夢』のモデル男性の、取材を拒んでいた遺族にも会った。日本では安楽死事件の当事者となった3人の医師を探し当て、今の思いを聞いている。
自分自身は安楽死への態度を決めず、中立的な立場で話を聞いた。
「本を書くときは自分が当事者ではないことが前提で、ゼロからスタートしたい。読者も、ぼくと一緒に旅をするように、この本を読んで安楽死について知り、考えてもらえたらと思っています」
人が死にゆく瞬間に立ち会う連載は、雑誌(『SAPIO』)掲載時の反響も大きかった。
「『何なんだ、これは』という衝撃があったようです。反響は、医者の側から、患者の側から、両方ありました。『どうしたら安楽死できるでしょう』という末期がんのかたからの切迫した問い合わせも。今も、反響は続いています」
(取材・構成/佐久間文子)
※女性セブン2018年2月22日号