母親に同棲5年目を迎える彼を紹介しようとしていた。しかし、いつになっても彼は待ち合わせのレストランに来ない。憤る彼女のもとに彼が事故にあったと連絡が入り、急いで駆けつけると、警察から彼の運転免許証を見せられ、こう告げられた。
「偽造されています。住所以外はすべてデタラメでした」
突然の知らせに彼女は唇を震わせた──。
公開中の映画『嘘を愛する女』のワンシーンだ。長澤まさみ(30才)演じる女性は、恋人役・高橋一生(37才)が研究医という職業もすべて偽ってつきあっていたことを知り、本当の彼を知る旅に出る。
「実はこの映画は本当に起きた事件が基になっているんですよ。監督は高校生の時に辻仁成さんのエッセイである事件記事を知り、十数年構想をねっていたようです」(映画関係者)
1991年11月4日、朝日新聞朝刊の社会面。「夫はだれだった」と大きく掲げられたその記事の内容は衝撃的なものだった。同年5月、都内で50代とされる男性が病死した。5年間連れ添った内縁の妻が死亡届を提出しようとしたところ、持っていた身分証明書や戸籍抄本のコピーは偽物だとわかった。
記事によると、「1940年京都生まれで、職業は医師」と自称していた男性にはさまざまな遺品があった。東大医学部卒の卒業証書のコピーからドイツ語の書き込みがある医学書、医大職員の身分証明書に、原稿用紙700枚に及ぶ書きかけの小説。
持病が悪化しても病院に行きたがらなかった彼を見て、内縁の妻は疑念を持ち始める。そして死の床の男性に「あなたは一体誰なんですか」と詰問する。男性は答えることなくそのまま息をひきとった。
女性は「決して彼にだまされたとは思わない。でも、ふたりで過ごした5年間のためにも、突き止めたい」と朝日の取材に答えている。
「映画と記事では彼の嘘を知った状況が違いますが、ついた嘘やディテールはリアルに作品に生かされています。実際の事件では、男性は10才以上年齢も詐称していたといいます。まさか現実にこんな怖い話があったとは…」(前出・映画関係者)
現実の事件の顛末は、記事掲載の半月後、彼を20年近く搜し続けていたもう1人の妻の存在がわかったと報じられた。出張といったまま消息が途絶えていたという。しかし、内縁の妻と出会うまでの15年は空白のままだった。
はたして映画の結末は。
※女性セブン2018年2月22日号