国内

笑う門には福来るは本当だった! 介護には笑いを持ち込もう

元気を取り戻す特効薬、介護に笑いを

 つらいとき、疲れて気力も尽きたとき、元気を取り戻す特効薬は“笑い”だ。83才の認知症の母を介護するN記者(54才・女性)は奮闘する中でそう気付いたという。

 * * *
 針仕事をコツコツこなす紳士服の職人で読書好き。人づきあいもよく朗らかだが、笑うときは必ず口元に手を当てる。家の中も生き方も“きちんとする”のが身上。若い頃の母はそんな人だった。

 それだけに、父が急死した後の母の激変ぶりには驚愕した。散らかり放題の家の中で、私が母のお金を盗ったとなじる鬼のような表情も、突然黙り込み、話しかけても反応さえしない無表情も、私の知っている母とはまったくの別人。認知症だから…と頭では理解していても、心が目の前の母を意地悪に警戒しているのが、自分でもわかった。

 そして若くてイキイキした両親と無邪気な自分の姿ばかり自虐的に思い出しては、「もう、あの母は戻らないのだな…」と嘆いていた。どんよりした頭の中にふと、遠い昔の一場面がよみがえった。

 私は中学1年生。父の転勤で大阪に移り住んだのだが、学校や近所でも“東京モノ”と距離を置かれ、そこへ来て父が病気になり、半年も休職して自宅療養。母がパートに出て家族を支えるような事態になった。家の中は暗雲が立ち込め、変な緊張感が漂っていた。そんなある日、母がなにを思ったか、笑い袋を買ってきたのだ。たしかピエロの絵柄の黄色い巾着袋で、スイッチを押すと延々と笑い声が流れる。

 食卓に笑い袋を置いて3人で囲み、おもむろに母がスイッチを押した。深刻な事情を抱えた家族がそうしていること自体おかしいのだが、突如笑い出した袋の声が妙に大きく、無理やり横隔膜をつかまれて震わされるような衝撃が走った。気づくと父も母も私も大爆笑。お腹がよじれるほど笑った。

 笑い終わるとなんのことはない。しかし、妙な緊張感はかき消されていた。あのときの母のドヤ顔。私は子供心に、母の魔術的な技に心底感服し、その後も人生のところどころで、この場面を思い出すのだ。

 あの時のように母を笑わせたいと思い、母の好きな落語にも頻繁に誘った。熱心に聞き入って笑うことはあったが、かつて母が教示した、苦境を吹き飛ばすほどの効用としては足りない感じがあった。

 そして思案の末、綾小路きみまろのライブチケットを取った。昔の母の嗜好を考えると少々不安もあったが、当たって砕けろと開き直った。ライブ会場は噂どおり、シニアのおばさまがたで満席。お連れのご主人や私のような若輩者は圧倒されまくりだ。

 いよいよ、きみまろ登場! スポットライトを浴びた派手な燕尾服姿で「中高年のみなさま、あれから40年…」

 いきなり大きな笑いの渦。空気も膨張するような勢いだ。母をチラッと見ると、なんと口に手を当てることもなく、大口を開けて笑っている! 私も引きずられるように笑い転げた。大笑いすると体中が気持ちよく、もっと笑い、もっと前向きに生きたくなる。みんなで笑う。この圧力も笑いの波に加速度を与えているようだ。奇しくもあれから40年…。そんな感慨に浸る間もなく、ただただ、おもしろかった。これでいいのだ!

※女性セブン2018年2月22日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

眞子さんと佳子さま(時事通信フォト)
《眞子さん出産発表の裏に“里帰りせず”の深い溝》秋篠宮夫妻と眞子さんをつないだ“佳子さんの姉妹愛”
NEWSポストセブン
「子供のころの夢はスーパーマンだった」前田投手(時事通信フォト)
《ワンオペ育児と旦那の世話に限界を…》米国残留の前田健太投手、別居中の元女子アナ妻が明かした“日本での新生活”
NEWSポストセブン
宮内庁は小室眞子さんの出産を発表した(時事通信フォト)
【宮内庁が発表】眞子さん出産で注目が集まる悠仁さま成年式「9月ならば小室圭さんとともに出席できる可能性が大いにある」と宮内庁関係者
NEWSポストセブン
若松次郎を演じる中島歩(左)は歴史上のある有名人の子孫にあたるという(C)NHK連続テレビ小説「あんぱん」NHK総合 毎週月~土曜 午前8時~8時15分ほかにて放送中
朝ドラ『あんぱん』ヒロインの“婚約者”を演じる中島歩は国木田独歩の玄孫 「中学と高校の国語教師の資格取得」に見える文豪の片鱗
週刊ポスト
会話をしながら歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《第1子出産》“叱らない子育て”が育んだ小室圭さんと“プリンセス教育”を受けた眞子さんが築いていく“これからの教育方針”「佳代さんはトイレトレーニングもせず」
NEWSポストセブン
田中容疑者の“薬物性接待”に参加したと証言する元キャバクラ嬢でOLの女性Aさん
《27歳OLが告白》「ラリってるジジイの相手」「女性を切らすと大変なんだ…」レーサム創業者“薬漬け性接待”の参加者が明かした「高額報酬」と「異臭漂うホテル内」
週刊ポスト
「大宮おじ」「先生」こと飯田光仁容疑者(32)の素顔とは──(本人SNS)
〈今日は〇〇にゃんとキスしようかな〉32歳無職が逮捕 “大宮界隈”で少女への性的暴行疑い「大宮おじ」こと飯田光仁容疑者の“危険すぎる素顔”
NEWSポストセブン
明るいご学友に囲まれているという悠仁さま(時事通信フォト)
悠仁さまのご学友が心配する授業中の“下ネタ披露” 「俺、ヒサと一緒に授業受けてる時、普通に言っちゃってさぁ」と盛り上がり
週刊ポスト
ラウンドワンスタジアム千日前店で迷惑行為が発覚した(公式SNS、グラスの写真はイメージです/Xより)
「オェーッ!ペッペ!」30歳女性ライバーがグラスに放尿、嘔吐…ラウンドワンが「極めて悪質な迷惑行為」を報告も 女性ライバーは「汚いけど洗うからさ」逆ギレ狼藉
NEWSポストセブン
田中圭の“悪癖”に6年前から警告を発していた北川景子(時事通信フォト)
《永野芽郁との不倫報道で大打撃》北川景子が発していた田中圭への“警告メッセージ”、田中は「ガチのダメ出しじゃん」
週刊ポスト
TBS系連続ドラマ『キャスター』で共演していた2人(右・番組HPより)
《永野芽郁の二股疑惑報道》“嘘つかないで…”キム・ムジュンの意味深投稿に添付されていた一枚のワケあり写真「彼女の大好きなアニメキャラ」とファン指摘
NEWSポストセブン
2日間連続で同じブランドのイヤリングをお召しに(2025年5月20日・21日、撮影/JMPA)
《“完売”の人気ぶり》佳子さまが2日連続で着用された「5000円以下」美濃焼イヤリング  “眞子さんのセットアップ”と色を合わせる絶妙コーデも
NEWSポストセブン