グラビア写真界の第一人者、渡辺達生氏(69)が還暦を迎えてから力を注いでいるのが、“人生最期の写真を笑顔で撮ろう”とのコンセプトで立ち上げた『寿影』プロジェクトだ。
『寿影』とは、渡辺氏による造語で、商標登録されている。葬儀で使用される『遺影』の“遺”の文字には暗くて辛気臭いイメージがあると感じていた渡辺氏は、代わりにこれまでの人生を祝う意味を込めて、美しい響きを持つ“寿”を選んで命名した。
撮影時間はわずか10分程度。できあがった写真を見ると、みんなが喜んでくれた。
「背景は余計な情報を入れないよう、シンプルな白バック。自然な笑顔を引き出すための架け橋となる宝物やお気に入りの一品を持ってきてもらい、それについての会話を交わしながら素の表情を撮影することに集中する。目指したのは、心にピントを合わせた、いつも通りの笑顔です」(渡辺氏)
『寿影』の輪は人づてに広がり、現在は渡辺氏が運営する『六本木スペース ビリオン』での撮影会と、小学館が運営する『サライ写真館』で、一般の人の撮影を受け付けている。
この日、渡辺氏は落語家・三遊亭円楽(67)の『寿影』を撮影。円楽は「私の一品」として銀座・宮脇賣扇庵の京扇子を手に取った。
「俺の人生、人の言いなり。落語家も師匠に誘われ、頼まれたことやってたら円楽にまでなっちゃった。でも、流されるのも面白い。ここまで来たら大したもんだ、上げ潮のごみだってな」
淀みない言葉の才は天性のもの。流れはまさに運命なのだ。