笑ったときの快感や前向きになれる感じは誰もが知っているはずだが、深刻な苦境に陥ると、笑うことさえ忘れてしまうのもまた、人の心。医療現場で笑いがさまざまな健康効果を及ぼす事例を経験し、医療や介護の現場に笑いの癒しを生かす活動を行う高柳和江さんに、改めて“笑う”ことの大切さを聞いた。
「大笑いすると、横隔膜が大きく上下して腹圧がかかり、内臓も刺激され、血流がよくなり、脳も活性化します。全身運動をしているのと同じような効果があるのです」
爆笑は、ホルモン分泌にも大きく影響すると高柳さん。
「まず、悲しみやストレスを感じたときに出るホルモン、副腎皮質ホルモンの分泌が抑えられます。恐怖心やマイナス感情が笑うことにより軽くなるのです。心臓病やぜんそくなど、ストレスにより悪化する病気には、笑いを取り入れることでとてもよい効果が生まれます。
また笑うことで神経伝達物質のセロトニンが放出されます。セロトニンは別名“幸せホルモン”とも呼ばれ、活力が高まります。さらにインシュリン分泌を促す遺伝子作用に働きかけ、ストレスで高まりがちな血糖値を正常にすることも知られています。
さらには、私たちの体を守る免疫力にも働きかけます。笑うとβエンドルフィンやドーパミンなど、精神の鎮静効果があり“善玉ペプチド”とも呼ばれるホルモンが大量に放出されます。これらは血液やリンパ液を通じて全身に行きわたり、がん細胞と闘うことで知られるNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化します」
笑いによるNK細胞活性は高柳さんの実証実験でも明らかになっている。
「大学生20人を集め、高圧酸素室に1時間入ってもらう実験です。半数の10人は高圧酸素室の狭いベッドに固定し、残りの10人にはやはり高圧酸素室の中で、お笑いのビデオを見せました。すると両者の入室前後のNK細胞活性に有意な差が。ビデオを見た大学生の方が明らかに活性化していたのです。
この実験は、人が不安や恐怖を感じる閉鎖的な空間で行ったことが重要なポイント。ビデオを見て笑ったことで、自分が安全で安心してよいと直感的に感じ、NK細胞活性につながったと思われます。このことからも笑いの効用とは、ずばり“安心・安全”なのです」
※女性セブン2018年2月22日号