笑ったときの快感や前向きになれる感じは誰もが知っているはずだが、深刻な苦境に陥ると、笑うことさえ忘れてしまうのもまた、人の心。医療現場で笑いがさまざまな健康効果を及ぼす事例を経験し、医療や介護の現場に笑いの癒しを生かす活動を行う医学療法士で一般社団法人癒しの環境研究会理事長の高柳和江さんに、改めて“笑う”ことの大切さを聞いた。
高柳さんはクウェート国立イブンシナ病院で10年間小児外科部長を務めた折、笑いの健康効果を実感。医療や介護における笑いや癒しの研究、自殺防止対策事業にも尽力。健康効果のある笑いを笑医(わらい)と名づけて研究を重ね、病気を抱えた人や要介護者の笑いを引き出して健康増進をはかる笑い療法士(※)の育成や講演会を行っている。
(※笑い療法士…癒しの環境研究会で資格認定。2018年3月から第14期笑い療法士募集開始予定。)
参加者からは、笑うことで血糖値の安定、認知症やリウマチの痛みの改善など、さまざまな成果が報告されているという。
笑医を実践する笑い療法士が、病院や介護施設などで行う技法や彼ら自身の心掛けから、心身を健康にする笑い方、笑わせ方のコツを聞いた。
「笑いの健康効果は、たとえばくすぐられて思わず出る笑いよりも、何かを考え、感じて感動したときの心からの笑い、努力をして成果を得たときの喜びの笑いの方が大きくなります。ですから、単に笑わせるのではなく“心を動かす”ことが大切です。
病気の人はもちろん、高齢者や認知症の人たちは、心が孤独で不安になりがちです。まず“あなたは大丈夫。安心していいのよ”ということが伝わるように接するのが基本です。
そしてほめること。表面的なお世辞ではなく、笑わせたい相手のことをよく見て、よいところを探して伝えます。自分の本質的なところに注目し、好意を持ってもらえることは本当にうれしく、ごく自然に笑顔になります。
感動することも大切です。心身が疲れて笑えないときというのは、感動する心を失っているときです。笑いのために、感動を探してみましょう。たとえば空や雲、木々や花、美しい絵や音楽、好きなお茶やお菓子。五感をフルに使って、自分の好きなこと、心が動くものを探すのです。小さなことでも意識的に感動することで、心から大きく笑うための練習になります」
高齢の親が無表情になりがちなら、一緒に感動の種を探すのもよいかもしれない。
「そして相手を笑わせたいなら自分自身が笑顔でいること。私たちの脳の中にはミラーニューロンと呼ばれる鏡のような役割の場所があります。目の前の人が笑っていると、伝染するように笑顔になるのです。ぜひ試しに意識して笑顔で人と接してみて。相手も必ず笑顔になるはずです」
こう話す高柳さん自身、とても明るい笑顔だ。取材の合間に少々脱線して雑談をすると、コロコロと楽しげに笑い転げたりするので、こちらも愉快な気分になって笑った。わざわざ構えて笑わなくても、日常生活の中にたくさん心身を元気にする笑いがあることを教えてくれた。
※女性セブン2018年2月22日号