「苦痛を共にした家庭は、安息の快楽を共にすることができる」とは、歌人・伊藤佐千夫の言葉。近くにいるからこそ、その大切さに気づきにくいのが家族の愛。苦労を共にしたその果てに見えた心温まる21才・学生の女性によるエピソードをどうぞ。
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私の家族は母と姉。母子家庭です。貧しいながらも仲よくやっていたのですが、私が高校1年になると、母はことあるごとに私たち姉妹に、「早く自立して、出て行ってほしいわ」と言うようになりました。家事も分担制になり、母の帰りも遅くなっていきました。
いつもイライラし、私たちを遠ざけようとするので、
「彼氏ができたから、私たちが邪魔になったんじゃない」
姉とそう愚痴を言い合っては不信感を募らせ、母を無視するようになりました。
そんなある日、学校から帰ると珍しく母がいて、机に突っ伏していました。寝ているのかと思ったのですが目が開いています。様子がおかしいと母の腕に触れて驚きました。異常に細かったのです。急いで救急車を呼びました。
母は2年前からALS(筋萎縮性側索硬化症)という病気を患っていたことがわかりました。ALSは徐々に筋肉がやせ、立つことも、食べることも、呼吸さえできなくなる病気です。母は診断を受けた時、いつ自分が死んでも私と姉が生きていけるよう、自立させることを考えたそうです。そして、体が動くうちにお金を貯めようと仕事を増やしたのです。
すでに就職している姉が、母の退院祝いに家族3人で温泉旅行に行こうと提案してくれました。この旅行で母は以前のやさしい母に戻りました。私も知らなかったとはいえ、母に冷たく当たったことを後悔しました。
退院後、車椅子生活になった母は、これからしゃべることもできなくなるそうです。母は私たちに家を出ろと言っていましたが、私たちは家に残り、少しでも母といられる時間を大切にしようと思っています。
※女性セブン2018年2月22日号