グラビア写真界の第一人者、渡辺達生氏(69)が還暦を迎えてから力を注いでいるのが、“人生最期の写真を笑顔で撮ろう”とのコンセプトで立ち上げた『寿影』プロジェクトだ。
『寿影』とは、渡辺氏による造語で、商標登録されている。葬儀で使用される『遺影』の“遺”の文字には暗くて辛気臭いイメージがあると感じていた渡辺氏は、代わりにこれまでの人生を祝う意味を込めて、美しい響きを持つ“寿”を選んで命名した。
撮影時間はわずか10分程度。できあがった写真を見ると、みんなが喜んでくれた。
『寿影』の輪は人づてに広がり、現在は渡辺氏が運営する『六本木スペース ビリオン』での撮影会と、小学館が運営する『サライ写真館』で、一般の人の撮影を受け付けている。
この日、渡辺氏は漫才師の内海桂子(95)の『寿影』を撮影。珊瑚の帯留や簪が映える着物姿で微笑む桂子師匠。指輪は病気の快気祝いに24歳年下の夫が贈ったフランスのアンティーク。縁起物だからと常に身に付ける。
「珊瑚はね、目立たないけど割に派手でしょう。ダイヤみたいにキラキラしたのは、ひけらかしてるみたいで性に合わない。だから私は昔から珊瑚ばっかり」
80歳を過ぎてから大けがや大病に見舞われた。耳も遠くなり足元もおぼつかないが、今も週3回、15分の舞台に立つ。三味線を奏で都々逸を歌うと、驚くほど艶のある甲高い声で観客を魅了し、孫、ひ孫世代の若い芸人相手に会場を笑いの渦に巻く。
「とにかく仕事してる時が一番楽しい。年寄りだからダメってことはない。若い人に教えながら、新しい芸を作ってるんです」