昨年末に行われた韓国でのインターネット調査によれば、韓国国民が卑下と揶揄をこめて使う「ヘル朝鮮」という言葉に共感する人が62.7%、移民を考えたことがある人が54.3%にものぼった。一方、開催中のオリンピックでは自国を熱狂的に応援する韓国国民の姿がある。愛と憎しみが入り交じる彼らの複雑な思いは、とくに失業率が高い若者ほど強いという。ライターの森鷹久氏が、日本で苦闘する韓国人留学生から、母国への本音を聞いた。
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平昌冬季オリンピックは早くも中盤戦。そもそも雪不足や工事の遅延などが報じられ「本当に開催されるのか?」などとも言われていたが、韓国と北朝鮮が一気にオリンピックを機に融和ムードになるなど、韓国を取り巻く環境がかつてないほど「良好」な状態に見えるのは、おそらく筆者だけではないはずだ。日本に暮らす韓国や朝鮮にルーツを持つ知人らに聞いても、オリンピックに対する評価は軒並み高い。
一方で、オリンピックが終わった時こそ「すべての不満が爆発するタイミングだ」と指摘するのは、韓国事情に詳しい全国紙の外報担当記者。いわゆる従軍慰安婦問題、中国や北朝鮮、アメリカとの政治的な摩擦、国内経済の不安、止まらない若者の国外流出といった数々の問題は、オリンピックの喧騒の陰にすっかりなりを潜めているとはいえ、何一つ解決されていないからだ。
「韓国での冬季オリンピックの大成功も、北韓(北朝鮮)と仲良くなるのも素敵なこと。だが、楽しむのはそれまで。私たちの国が地獄であることには変わりない」
諦観の滲む表情で冷静に語ったのは、ソウル出身で東京の専門学校に通うミナ(25)。大学卒業とともに来日したのは、祖国での就職に失敗したからだった。人口5100万人の韓国における2017年の失業率は3.7%。とくに若年(15~29歳)失業率は9.9%にものぼり、過去最悪を記録している。大卒以上の失業者数は50万2000人で、全失業者102万8000人の半分近くを占め、大企業でも新卒採用を増やさないため大卒者にとって就職は超氷河期のまっただ中にある。
「日本語を学べば日本で就職ができる」と考えたミナは、知人らとともに日本の専門学校に入学したが、今も学校に残り学んでいるのはミナともう一人だけ。他は全員、名目上の「専門学校生」を続けつつ、水商売や風俗の仕事をして母国に僅かながらの送金をしつつ、なんとか日々の生活を送る。
筆者はかれこれ7年ほど、韓国から日本にやってきて体を売る「韓国人売春婦」の存在について取材を続けてきた。東京・六本木のナイトクラブで知り合った、金払いの良い韓国人女性らとの出会いがきっかけに始めた取材だったが、当時から今に至るまで、同じようにして日本国内で秘密裏に違法な産業に従事する韓国人女性が後を絶たない。
「“ヘル朝鮮”といわれるように、韓国の若者は本当に厳しい状況。日本以外にも、アメリカやカナダ、ヨーロッパに留学し、そこで仕事を見つけようとしている同胞は多い」(ミナ)
ミナを含む、大半の来日韓国人女性たちは、最初こそ純粋に「留学」をして日本語を学びつつ、日本で就職をしたいという夢に燃える普通の若者だった。しかし、日本国内の有効求人倍率がいくら高いとはいえ、彼女たちが活躍できる場所は日本国内に多くはない。結局、最低賃金スレスレのコンビニや飲食店でのアルバイト、留学生や不法滞在者を違法に雇い入れる企業らに取り込まれる形で、彼女たちはすぐに「搾取される対象」となった。
「初めはコンビニで働いた。でも家賃を払えばご飯も食べられなくなる。留学生の先輩に紹介される形で、寮とご飯付きの”エスコート(売春)”を紹介してもらい、今はそこで働きながら勉強しています」(ミナ)
ミナたちが働いているのは、東京都豊島区に事務所を抱える派遣マッサージ店で、社長は在日。日本で育ち、仕事と生活の拠点を日本に置いている韓国人だという。“同胞”の元で働いているというが、その実態は労働時間や賃金の面で搾取されており「ブラック職場」そのものだ。にも関わらず、劣悪な環境で働いているという感覚は、彼女たちには希薄なようだ。
「日本人も仕事がない、だから私たちにも仕事がない。これ(売春)をやるしかない、というのは理解できますから、あと何年か頑張ってお金を貯めて、アメリカかカナダに行くか、日本で商売をします。韓国の人気の化粧品を日本に輸入したいと思っています」(ミナ)
ほとんど「虐げられている」状況にありながら、健気に暮らすミナ達だが、ふとした瞬間に思わず漏れるのは、自分たち若者のことについて、なんら気にかけていないのではないかと思わせる愛すべき祖国への怨嗟である。