主力のモーター事業を軸に、連結売上高2兆円に迫る勢いの日本電産。その成長企業で、1973年の創業以来初となる社長交代が行われる。カリスマ創業者として名高い永守重信社長が、社長の椅子を吉本浩之副社長に譲ると発表した(4月1日付)。
永守氏は73歳、吉本氏は50歳だから、2回り以上の若返りとなるが、永守氏はかねてから「後継者は50歳くらいの人」と公言しており、その言葉どおりの交代劇となった。
吉本氏は日本電産プロパーではなく、日商岩井(現双日)、カルソニックカンセイ(自動車部品メーカー)、日産自動車を経て、2015年に顧問として入社した。つまり日本電産の社歴はまだ3年にすぎないが、買収した日本電産トーソクの再建に手腕を発揮したことで永守氏の信頼を得た。
この人事は今後の日本電産の方向性を明確に示している。
「日本電産は2030年に売上高10兆円の目標を掲げている。これまでは精密小型モーターで成長してきたが、今後は電気自動車(EV)用車載モーターによって成長を見込んでおり、これまでとは事業領域が大きく異なるため、経営の舵取りも難しくなる」(全国紙記者)
その点、吉本氏は日商岩井時代も自動車を担当し、その後日産では部品を担当するなど、この領域に極めて明るい。これからの日本電産の成長を牽引するにはうってつけと言える。
もっとも社長交代をしたからといって、永守氏はCEO(最高経営責任者)にとどまり、代表権のある会長になる。永守氏本人もかねてより「自分の後は集団指導体制を敷く」と発言してきた。今回の社長交代劇でも、「最初は私が7割を持ち3割を渡す」と主導権は自分が持ち続けると明言した。
カリスマ創業者の威光は今後も途絶えそうにないが、このまま「院政」を敷き続けて日本電産最大のリスクとまで言われる後継問題、世代交代がスムーズに進んでいくのだろうか。『経済界』編集局長の関慎夫はこんな見方をする。
「創業者かつカリスマ経営者であればあるほど、生涯経営者であり続ける。それは彼らにとって経営は人生と同義語だからです。
永守氏は孫正義・ソルトバンクグループ社長が一時、社長交代を口にした時も〈孫さんが60歳で辞めるなんて、僕はそもそも最初から『絶対辞めないな』と思っていた。今でも69歳までやるとか言っているが、69歳になったらまた10年やりますよ〉と答えていましたが、それはそのまま自分自身にも当てはまっているのです」
吉本氏にとっても、永守氏が実権を持っていたほうがやりやすいことが多々あるのかもしれない。