俳優、歌手、演出家とさまざまな顔を持つ夏木マリ。多忙な彼女が今、頻繁に京都を訪れているという。東京育ちの彼女が、60代になって、帰れる場所と感じた故郷。東京と京都の2つの居場所を見つけた彼女にその心情を聞いた。
2011年に、パーカッショニストの斉藤ノヴと、60才を前に結婚した夏木マリ。東日本大震災があった年だったことから“震災婚”などといわれたが、結婚を決意したのには、義母の存在が大きかったという。
「たまたま結婚したのがその年で、その前から(斉藤の)母と家族になりたい、と思っていました。年をとって将来、世話をする時に、得体のしれない女が来るより(笑い)、嫁の方が母も安心すると思って、籍を入れたんです」(夏木・以下同)
今の時代、高齢の親を呼び寄せて面倒を見る人も多い。が、実際には高齢になってから、住み慣れた土地を離れて暮らす人の中には、新しい暮らしに適応できず、うつや引きこもりになってしまうケースも増えている。夏木は、映画『生きる街』(3月3日公開)に出演したことで、故郷で暮らす大切さを強く感じたという。
映画の物語はこうだ。生まれ育った海沿いの町で、漁師の夫と2人の子供と暮らしていた千恵子(夏木)の日常は、2011年3月11日を境に一変する。東日本大震災で、夫を津波にさらわれてしまったのだ。
彼女は夫の帰りを待ちながら、民泊の営業に乗り出すが、家族の心はすれ違っていく。夏木にとって、千恵子という女性の心境は人ごとではなかった。
「千恵子さんは津波で夫を失っても、その場所から離れませんでした。きっと、私たちの世代って、いくらつらくても故郷を離れられないんじゃないかしら。それは、夫や家族、周りの人との思い出がたくさん詰まった場所だから…」
そんな思いを抱えながら現実問題として、京都に住む義母との暮らしを考えた時、自分の生活拠点を京都に移すことも、義母を呼び寄せることも難しいと考えた。そして今、東京と京都を行き来する暮らしを送っている。
「私の場合、母は90代ですが、まだまだ元気。買い物などは、お手伝いさんにお願いしているものの、基本的には何でも自分でやっています。ですが、高齢なので、できるだけ一緒にいたいと思って。そこで、西の方で仕事があると寄ったりしながら、月に1度くらいのペースで京都に“帰って”、できる限り母と過ごすようにしています」
彼女が京都で過ごす理由は、それだけではない。
「私は東京生まれで、故郷がなかったから、とても新鮮です。以前は京都に行くとなると、着物を作ったり、買い物で忙しかったのですが、今は実家でのんびりと過ごしています。母には、会うとあれこれ相談したり、叱咤激励してもらったり。毎回、有り難い気持ちになって東京に戻ります」
家族がいるもう1つの住まいが、夏木の活力となっている。
撮影/平野哲郎
※女性セブン2018年3月1日号