ストレスの多い、親の介護・支援の場で、常に冷静でいれば事がスムーズに運び、自分や親もどんなに楽かとわかっていても、怒りはこみ上げる。そんな心の悩みをカウンセリングする臨床心理士の稲富正治さんに“怒り”との上手な向き合い方を聞いた。
「怒りの感情は本能的なもの。なくすことはできないし、なくしてはならないものなのです」と稲富さん。
「嫌なことがあったり、過去の不快な思いがよみがえったりしてストレスが生まれると、そのストレスが発散する出口が必要になりますその出口の1つが怒り。怒りは乱暴な言葉や物に当たるなどの行動を伴って出やすいため、人間関係を壊すトラブルにもなりますね。でも蓋をしてしまうと、ストレスは出口を失い、体に出たりします。ストレス性胃潰瘍、偏頭痛、帯状疱疹、突発性難聴などもその表れです」
ホルモンバランスが崩れる更年期には自律神経のバランスも崩れやすく、交感神経優位が続いてイライラが収まらないこともあるという。
「また高齢者の場合は、加齢で体が硬くなるのと同じように心の柔軟性もなくなります。感情の世界が狭まることで不満や悲しみが募り、怒りやすくなる傾向はあります。いずれにしても、怒りの感情に振り回されないためには、こんな怒りの正体を理解しておくことが大切です」
「ストレスを外に吐き出すには声を出すのがいちばん。話すと息を細く長く出すため自律神経が自然に整うのです。介護の場での怒りなら、親以外の第三者に聞いてもらう。怒りの原因や率直な気持ちを伝えるうち、自分の心を冷静に見られるようになります」
親が怒っているなら、聞き役は自分だ。
「気をつけなければならないのは、聞く人の役割は怒りを吐き出させることであって、アドバイスすることではないということ。親身に聞くあまり、自分なりの解決策を必死で考えがちですが、怒りの原因や解決策は本人の中にあり、本人以上によい答えは出せないもの。心の中を吐き出すことで、本人がその答えに向かっているのに別の答えを投げかければ、すべて水の泡です。『何があったの?』と、本人の感情に寄り添うように、ひたすら聞けばよいのです」
またひどく感情的になっている人を落ち着かせるために、こんな方法があるという。
「まず頭からいちばん遠いところ、つまり足を使わせます。歩いてその場を離れさせる。体を動かすことでエネルギーを発散させ、意識を別のところに向けることができます。また電話で話している場合は、移動した先の場所の様子を言葉で説明させるのも有効。『どんな場所? 寒くない?』と。すると、一旦落ち着いて、心の中を話せるようになります。日本人は気持ちを吐露するのが苦手。日頃からおしゃべりの中で自分の気持ちを上手に伝え、心がすっきり楽になる経験を重ねると、自分の怒りともうまくつきあえます」
※女性セブン2018年3月1日号