旅先での見知らぬ人との交流は楽しいものだが、女性セブンの“オバ記者”こと野原広子(60才)は、不思議なカップルに先日会ったという。その嘘に微妙な心の機微を感じた。
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年末、友達のY子(48才)と行った静岡県・伊東のホテルでのこと。夕食のバイキングで、私たちの横のテーブルから、「生ビールも飲み放題っていいですよねぇ」と声をかけられたの。
「T美」と名乗る彼女は68才。ぴかぴかの肌つやで、高齢者というより中年まっただ中といった印象。
「ワゴン車に布団を積んで、夫婦で全国を回っているの」と言う。いわく、この日こそホテルに泊まったけど、ふだんは道の駅の駐車場で寝泊まりして、「旅ばかりしている」んだって。
「いいなぁ」と身を乗り出す私に、ご主人のA男さん(59才)は無言でニコニコ。
見た目はメタボ気味なのに、びっくりするほど動きが素早くて、酒の強い女3人のグラスが空くと彼は、飲み放題のビールや酎ハイをせっせと運んできてくれたりする。内心、こんな男性が家にいたらいいなと思ったわよ。
その後、カラオケルームに移動して、聞けばふたりは再婚同士。
「結婚7年目。あはは。まだまだ新婚に近い感じかな」とA男さんがT美さんに身を寄せれば、T美さんもA男さんのはだけた浴衣の胸元を合わせたりして、仲睦まじいなんてもんじゃない。
「よほど仲良くないと、夫婦で車の中で布団敷いて寝られないよ。私らみたいに女同士でつるんでいたら、そんな男の人と永遠に出会わないわ」と私たちが大きなため息をつくと、「いえいえ、こればかりは縁」とT美さんはどこか得意げ。
◆「うちに遊びに来てね」と小指を出してウインク
なんでも彼女は、ずっと熟年女子仲間の幹事役で、毎週末のように飲み歩いていたんだそう。
「それがさぁ、おれが出てきて、うふふ、大変だったんだよな」
A男さんはそう言って不敵な笑みを浮かべる。