『あたし おかあさんだから』――こんなタイトルの歌が物議を醸している。
この歌は、絵本作家の「のぶみ」さんが作詞で、NHK『おかあさんといっしょ』で11代目うたのおにいさんを務めた横山だいすけが歌うもの。歌のなかでは、育児に追われる母親の日常が描かれている。
この歌がネットの動画サイトで配信されるやいなや、「母親にがまんや自己犠牲を強いている」「子供にはとても聞かせられない」「なぜ父親が登場しないの」という批判が殺到した。思わぬ大炎上に、当初は「ママお疲れさまの応援歌なんだ」と釈明していたのぶみさんは謝罪に追い込まれ、曲は配信停止となった。
今回の件で、「おかあさん」について改めて考えさせられた方も少なくないだろう。こうした一言で「おかあさん」と言っても多様な価値観がある状況だが、実際に「おかあさん」をしてきた人々は子育てをどんなふうに捉えているのだろうか。
女優の中村メイコさん(83才)は、女優業と両立しながら3人の子供を育て上げた「元祖ワーキングマザー」だ。
23才で結婚して翌年に長女を出産した中村さんは、一度は専業主婦になることを決めたが、夫で音楽家の神津善行さん(86才)から、「これからの女性は仕事をしなきゃ」と諭された。
それでも当時は「育児と家事は女性」との習慣が根強く、中村さんは睡眠時間3時間で毎朝5時半に起床して、お弁当作りと3食の下ごしらえを欠かさなかった。過酷な日々だったが、中村さんは、「そういうものだから」と意に介さない。
「私は昭和一ケタ生まれで祖母や母の暮らしぶりを見ていたので、仕事を持っていてもごく当たり前に掃除や洗濯、食事の用意をしていました。とくに28年続けた子供たちのお弁当作りには“母親をしている”という意地もあった。子供たちにしてみれば“忙しいから今日はパンを買って”と言われた方が気が楽だったのかもしれないけれど、毎日やらなければ子育てしていることにならないのだと思っていたのです」(中村さん)
中村さんは、結婚後に仕事を半分に減らしても、レギュラー番組が週に6本という超売れっ子だった。当時はドラマも収録ではなく生放送だったが決して仕事に穴はあけず、夕食の時間になると急いで帰宅し、下ごしらえしてあった料理の味を調えた。そして一家で夕食を食べ終えるとすぐ、「ママ、お仕事行ってくるから」と仕事場にトンボ帰りしていた。
そんな中村さんの姿を目の当たりにした番組スタッフの中で、いつしか「中村メイコに夕飯時の1時間は仕事を頼むな」が合言葉になった。しかし中村さんには、「子育てで女優業を犠牲にした」との思いはまるでない。
「何度か訪れた女優としての絶好期にも家庭を優先したから、80年近く芸能界にいるけど私にはこれといった代表作がないんです(苦笑)。でも私にとっては上の2人の女の子を礼儀やマナーを持ったレディーに育てることがいちばんの目標でした。子供がいくら憎らしくても、一人前の人間として育てるのが産んだ母としての務めだと思うんです」(中村さん)
※女性セブン2018年3月8日号