グラビア写真界の第一人者、渡辺達生氏(69)が還暦を迎えてから力を注いでいるのが、“人生最期の写真を笑顔で撮ろう”とのコンセプトで立ち上げた『寿影』プロジェクトだ。『寿影』とは、渡辺氏による造語で、商標登録されている。葬儀で使用される『遺影』の“遺”の文字には暗くて辛気臭いイメージがあると感じていた渡辺氏は、代わりにこれまでの人生を祝う意味を込めて、美しい響きを持つ“寿”を選んで命名した。
自然な笑顔を引き出すための架け橋となる宝物やお気に入りの一品を持ってきてもらい、それについての会話を交わしながら自然な表情を撮影する。田原総一朗氏(83)が持ってきたのは、潮出版社の文化手帖だ──。
80歳を超えてなお、睡眠以外の時間すべてを仕事に費やす。その日々を支えるのがこの手帳。物に執着はないが、唯一30年以上使い続けている愛用品である。
「連絡先は毎年3日間かけて書き写す。スケジュールを含め、すべてが詰まった1冊です」
佐藤栄作以降、歴代総理全員にインタビュー。お世辞は一切言わない。言いたいことを言う。政界、財界の大物と会っても同じこと。それでも信頼は厚い。「絶対に嘘はつかない、欠席裁判をしない、秘密の情報を持たない、この3つが持論。結果、信頼に繋がっているんだと思う」
背景にあるのは終戦を境に180度変わった大人たちの言動。「子供心に大人は信用できない。国は国民を騙すものと思った。言論統制がなければ戦争は防げたかもしれない。だから僕は戦争を知る最後の世代として、言論の自由は体を張って守ります」
理想の最期を尋ねると「『朝まで生テレビ!』の本番中に逝きたいね」と真顔で答えた。
●たはら・そういちろう/1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経て、1977年に独立。『日本の戦争』など多くの著書があるほか、『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)の司会など、テレビ、ラジオで活躍。
◆撮影/渡辺達生、取材・文/スペース リーブ
※週刊ポスト2018年3月9日号