親が要介護になる頃、子世代は人生真っただ中。仕事でも脂がのってくる時期だ。2017年、歌舞伎俳優から劇団新派での新境地を開いた河合雪之丞さん(47才)もまた、同年の暮れに母・正子さんを看取り、現在は92才の父・宣質(のぶただ)さんを介護中。仕事と介護の両立に悩み、出した答えとは。
3才でテレビの歌舞伎中継番組に釘付けになり、5才の頃には劇場の花道脇の5列目席を陣取るほど夢中になったという河合雪之丞さん。
18才で憧れの三代目市川猿之助(現・二代目市川猿翁)に入門し、30才で名題昇進。次代を担う女形として活躍していたが、40才を迎える年に、客演した劇団新派の舞台に魅せられ、歌舞伎の世界を去る決心をする。役者としての大転機。そしてその頃、親の介護が始まったという。
「まさにちょうど同じ頃ですね。父が膀胱がんになり、ストマ(人工膀胱)をつけることになりました。訪問看護が入ることになり、そこで初めて要介護度や介護事業所というものを知り、ケアマネジャー(以後、ケアマネ)さんやヘルパーさんと連帯するという、ある意味、新たな生活が始まったのです。
当時、父は84才。母は79才でしたが『私がお父さんのストマ交換をやるわ!』と言い張り、あまり外部の人を家の中に入れたがりませんでした。母はもともと器用な人でしたから、面倒なストマ交換もすぐに覚え、テキパキこなしていました。そんなわけで初めは、父の介護は母が中心になってこなしていました」
父の膀胱がんから5年後、今度は母・正子さんが胃がんに。正子さん84才、雪之丞さん44才の時だ。
「胃を全摘出したため腸瘻をしたのですが、不快なのか夜中に自分で管を抜いてしまうのです。鎖骨下の静脈から栄養を投与する方法も行いましたが、感染症を起こして6週間も再入院。すると退院後にせん妄が起き『病院に荷物を置いてきたから帰らなきゃ』と、出て行こうとするのです。
高齢で入院すると誰にも起こると聞いてはいましたが、それまでのしっかりした母を思うと、胸に迫りました。それでも母があまりに真剣なので『病院に電話して荷物を取っておいてもらうね。ぼくが近いうちに取ってくるよ』と、必死の演技で引き留めました。
結局、腸瘻も静脈栄養も難しく、できるだけ食べることで栄養摂取を図り、私も極力、食事を作るようにしました」