山梨県のほぼ中央に位置し、北に八ヶ岳、南に富士山、西に南アルプスを望む山梨県甲府市。ぶどうの産地として有名だが、かつて、同市北部で水晶が採れたことから、地場産業として宝石加工が盛んな場所でもある。今回は、ハイレベルな宝石の加工技術を独自に発展させてきた、この地の歴史をたどる旅に出かけた。
戦国時代、風林火山で名を轟かせた武田信玄が、本拠地としていたのが山梨県甲府市。ワインの名産地としても有名だが、ここでワインが作られるようになったのは明治以降。それよりはるか昔には、水晶の産地として栄えていた。
「山梨県の北部を中心に、かつて水晶の鉱山があり、良質な水晶がたくさん採れました。それで江戸時代後期には水晶の加工が盛んになり、山梨で水晶工芸が始まりました。それが山梨ジュエリーの始まりです」(山梨ジュエリーミュージアム広報担当の武川信介さん・以下同)
その後、明治時代には水晶の研磨技術と「かざりもの」と呼ばれた貴金属加工が結びつき、宝飾産業が発展していくが、明治にはほぼ水晶が枯渇してしまう。そこで、これまでの技術を途絶えさせるわけにはいかないと、海外など他の地域から水晶を調達。水晶彫刻やジュエリーを作り、今日まで技術を継承してきた歴史がある。写真は六面体の結晶面を完全な形で備えた世界的にも希少な山梨県産の大型水晶(山梨大学所蔵)。ともに山梨ジュエリーミュージアムで展示中。
山梨ジュエリーの質の高さは、職人たちが伝統を受け継ぎ、切磋琢磨しながら発展してきた技術にある。なかでも宝石研磨は、職人が指先の感覚だけで水晶表面を削っていく「手ずり」と呼ばれる、日本独自の伝統技術で行っている。
この、機械ではなくフリーハンドで石の表面にカットを施していく作業が、高いクオリティーを生み出す。
「手作業だと原石を見ながら、その石の特徴を生かして、自由なカットができるのです。そのため、ここでは唯一無二のオリジナリティーのある宝石ができるのです」
『山梨ジュエリーミュージアム』では、このような職人技を見るコーナーも設けられており、土日祝には、この地で培われてきた繊細な工芸技術を目の当たりにすることができる。
また、市内にあるジュエリーメーカー『ラッキー商会』では、デザインから原型作り、仕上げまでの全11工程を見学できるほか、好きな石を選んで、職人の指導のもとで仕上げの研磨を行い、自分だけのジュエリーを作るジュエリー手作り体験もできる(要予約)。
長年、この地で育まれてきた技術は原石に温もりと柔らかな輝きを与える。それは何より、職人たちの愛情こもる手作業から生まれている。
※女性セブン2018年3月15日号