光沢を放つ漆色の車体。先端には菊の御紋が金色に輝き、日章旗が翻る──天皇、皇后、皇太后のために特別に運行される列車を「お召し列車」といい、なかでも天皇のために特別に造られた車両を「御料車」と呼ぶ。
〈国鉄の車にのりておほちちの 明治のみ世をおもひみにけり〉
1988年1月の歌会始で昭和天皇が詠んだ歌である。お題は「車」。国鉄が民営化される直前、おほちち(祖父)の明治天皇を思い起こして詠んだという。翌年、昭和から平成に元号が変わった。
「戦前から戦後の長きにわたり、銀塗装が各所に施され、完璧に磨き上げられた機関車が、豪華な内装で彩られた御料車を牽引しました。
御料車の内部には豪華な装飾が施されていました。1923年、当時は皇太子だった昭和天皇が、日本統治時代の台湾をご訪問されたのですが、その時の御料車を見ると、実に優雅な雰囲気が漂ってきます」(鉄道史研究家・白川淳氏)
お召し列車は、戦後復興のシンボルとしても活躍した。
「1946~1954年にかけての戦後巡幸では、昭和天皇は占領下の沖縄県を除く、全都道府県をお召し列車で回られました。当時は宿泊施設も少なく、1946年に千葉の銚子を訪れた際は、御料車内で宿泊されています」(白川氏)
昭和天皇は、崩御の前年まで毎年汽車に乗るほど鉄道との縁が深い。お召し列車で生涯走行した距離は地球4周超、17万km以上に及んだ。
※週刊ポスト2018年3月9日号