認知症の母(83才)の介護をするN記者(54才・女性)。母の生きがいに触れる発言に触れ、心が動いたという。
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昨年秋、この『伴走介護』で紹介した料理のデイサービス(なないろクッキングスタジオ成城)取材の際、認知症もあるがまだまだ元気な高齢者として、母に体験モデルになってもらったことがある。
デイサービスのコンセプトは、頭や手先を使う料理を“リハビリ”としてとらえたもの。長年主婦をやった人なら、たとえ認知症でも、体が包丁さばきを覚えている。料理を完成させることで、自信にもなるというものだ。
20代の調理スタッフに指導されながら、母と数人の体験入会の高齢者が見事なちらし寿司を完成させ、見学に来ていたケアマネさんたちも驚きと絶賛の声を上げた。私も正直、3年も料理をしていない母の料理の出来にかなり驚き、母も満足げで、デイサービスの狙いどおり、よいリハビリになっているという記事を書いた。いい取材になった。
最後に参加者全員で、作った寿司を試食していると、「さすがの包丁さばきでしたね。お疲れはありませんか?」と、調理スタッフのお嬢さんが笑顔で話しかけてくれた。
「ありがとうございます。楽しかったわ」とごきげんな母。そして、こう続けた。
「高齢者って人の役に立てることがいちばんうれしいの。今日はうれしかった」と。
あれ? 若干、話がかみ合っていない…と思ったが、お嬢さんも一瞬、キョトンとしながら笑顔で去っていったので、その場は収まった。
「ねえ、今のどういう意味? 料理を楽しませてもらったのに、誰の役に立ったの?」
お嬢さんがいなくなると、すかさず私は問いただした。認知症の人に、発言の矛盾をついてはいけないのが鉄則だが、母にはつい言ってしまう。
すると母は間髪入れずに、「もちろんNちゃんのよ! これ、Nちゃんのお仕事でしょ? あのお嬢さん(調理スタッフ)も若いのに一生懸命やってて感心しちゃったわ」
またまたかなり驚いた。母は昔から、私の仕事については興味なさげに振るまうし、取材ということも説明はしたが、すぐに忘れてしまうものと思っていた。そういえば母は、普段通っているデイケアのスタッフのことも同じようにほめる。
「Nちゃんより若いのに、老人相手に熱心にやってくれるの。がんばれと言われるから、期待に応えなきゃと思って」
母は介護サービスを受けながら、子供か孫のような介護職の人たちの仕事に“協力”しているつもりなのだ。
こんな思い出もある。私がフリーになった頃、仕事でひとり立ちしたことを母に自慢し、心の奥底ではちょっとほめてもらいたくて、寿司をごちそうした。母がただただ喜ぶとばかり思っていたら、
「ちゃんとお金もらえてるの? 払ってくれないところがあったらママが取り立ててやる!!」と、品のいい寿司店にそぐわない叫び声。私も同じ勢いで怒り返し、せっかくの食事が台なしになったが、私も娘を持つ母として年を重ねるうち、母の思いが理解できるようになってきた。
80才を超えても、認知症になっても、母は娘の役に立ちたいものなのだ。
※女性セブン2018年3月15日号