「裁量労働制」導入を巡り、安倍晋三首相は1月29日の衆院予算委員会で、「(裁量労働制の労働者は)一般労働者より労働時間が短いというデータもある」と答弁した。
だが、その根拠として提示された統計データは杜撰なものだった。このような“あやしい統計”がいつの間にか“世の常識”として定着してしまうのは裁量労働制の一件に限ったことではない。
例えば年金もそうだ。日本の年金は100年安心──小泉政権で坂口力・厚労相(当時)が発した言葉だが、それを実現するために役人は突拍子もないデータを駆使していた。
5年おきに行なわれる年金制度の「財政検証」。直近の2014年の資料に「公的年金被保険者数の将来見通し」と題されたファイルがある。
この中で厚労省は、出生率や死亡率、高齢者や女性の労働参加について試算を行ない、夫婦2人世帯の年金月額の合計が「現役世代の男性の平均月収の半分を割り込まないようにする」という受給水準を将来まで維持できると示している。
ところがその根拠は超楽観的、いや夢物語というほかない。
多くの人が働けば保険料納付者が増えて年金財政は当然楽になるが、厚労省が想定する「労働市場への参加が進むパターン」はあまりにも非現実的だ。60代前半の男性の9割、60代後半の3人に2人が働き、女性も20代後半から50代の85%以上が働くという前提なのだ。
「100年安心」を成立させるためにデータを操作するのは厚労省の“伝統芸”のようだが、やはり出来が悪い。
※週刊ポスト2018年3月16日号