高齢化が進む日本社会において、介護は誰もが避けられない問題だ。特に子が親を介護する際に、意外に大きな壁になるのは、お互いが大人だということだという。助けてもらう親にもプライドがあり、そう思うと、助ける子の方も遠慮がちになる。
でも、体に“触れる”ことには大きな癒しの効果があり、すでに医療や介護の現場でも取り入れられているという。福祉大国スウェーデン発祥の“触れるケア”タクティールケアのインストラクター、原智代さんに聞いた。
「今、日本の病院や介護施設でも行われているタクティールケアは、心地よさと安心感、痛みの緩和をもたらしてくれるケアの手法で、スウェーデンの未熟児ケアの中から生まれました」と、原さん。
発祥が1960年代というから医療技術面もひと昔前。未熟の状態で生まれて来た子供の小さな命を、何とかつないで育てようとした看護師たちが考案したという。
「ケアの中で、看護師の手でたくさん体に触れられた子は血流量が増加し、体温の上昇や安定が見られ、触れられなかった子に比べて成長の度合いに明らかな差がありました。この経験から“体に触れる”ことの有効性を確信し、手、脚、背中などをやさしく手でなでさするメソッドを確立。障害児やがん患者の終末期ケアなどにも使われるようになりました」
日本では2006年から、当初は認知症ケアの一環として取り入れられた。
「本国スウェーデンでも、ここ20年ほどは高齢者や認知症のケアとして広く行われるようになりました。日本の病院や介護施設、在宅介護などに導入されると、認知症による攻撃性が劇的に収まったり、リウマチの痛みが和らいだりするなど、治療・改善効果も見られ、以来、大変、注目されています。ストレスの多い現代人には、この癒しを必要とする人も多く、要介護の高齢者だけではなく、介護をするご家族にも施術して、喜ばれています」
現在日本では、日本スウェーデン福祉研究所に認定された資格取得者が、病院や介護施設などで施術を行っている。認定取得のための講座受講者には医療・介護関係者のほか、家族のために施術を覚えたいという一般人も多いという。
◆不安や恐怖が取り除かれ、不眠や便秘、冷え解消も
人の手が体に触れることで、なぜこのような健康効果が得られるのだろう。
「1つには、皮膚から伝わる刺激によって脳の視床下部からオキシトシンと呼ばれるホルモンが分泌されることによると考えられます。オキシトシンはストレスを和らげて幸せな気分にさせる働きがあり、別名“幸せホルモン”“愛情ホルモン”などとも呼ばれています。
また、痛みの緩和にはゲートコントロールも関連していると思われます。これは興奮状態のときには痛みが強く感じられ、患部をなでさするなど触覚を刺激すると痛みの伝わりが弱まるというもの。今のところ1つの学説ではありますが、痛いときに無意識に患部をさすることからも効果は明らかでしょう」
そしてもう1つ重要なことは、人に触ってもらうことで自分を確認でき、不安が解消されるということだという。