平昌五輪で金メダルを獲得した羽生結弦(23才)。帰国後、サイン帳に「自分自身を貫く」と書いた。自分を貫くことで、周囲の人に心配されたり文句を言われたり、本当に信じている人に裏切られたりするかもしれない。それでも、絶対に後悔することはないから、と。「孤独」を恐れない羽生らしい言葉だった──。
帰国後の会見で記者から「孤独感はあるか?」と問われた羽生はこう答えた。
「『(孤独は)ある』と言ったほうがおもしろいですかね?(笑い)なくはないです。以前は『すごく孤独だな』『誰もわからないだろうな、この気持ち』と思いながらやっていました」
誰もわからないだろうな、この気持ち──羽生が会見で漏らした言葉は、“さみしさ”からではない。むしろ、その“いさぎよさ”が羽生の強さだと語るのは、精神科医の片田珠美さんだ。
「学校でも職場でも地域でも、『人間関係』がすべて。精神科医への相談のほとんどは、人づきあいの悩みです。しかし、優秀なスケーターに求められるのは協調性ではなく、技術や表現力。人間関係を“そぎ落とす”ことによって、孤独はついてまわるけれど、余計なことに惑わされずに、競技に集中できます」
羽生の驚異の強さの秘密。それは「孤独脳」にある。単純に「人間関係に煩わされない」というだけではない。脳科学者で『才能の育て方』(小学館刊)著者の加藤俊徳さんはこう分析する。
「孤独で人づきあいが少ないにもかかわらず、羽生選手はコミュニケーション能力が非常に発達しています。会見での受け答えは、非常に明快で、説得力がある。
それは、なぜか。羽生選手は他人とではなく、自分との対話に重点を置いて生きてきたからです。自分がどうなりたくて、そのために今何をするべきかを日々考えている。それが、多くの情報分析に関与する脳の『頭頂葉』という部分を強化します。
しかも、フィギュアは空中で回転するスポーツなので俯瞰する能力が必要ですし、審査員に採点されるので客観的に自分を捉える訓練も積んでいます。彼は他者観察をする『右脳』と自己観察をする『左脳』を見事に使い分けているから、自分を客観視できるんです。羽生選手はそうした『孤独脳』を鍛えることで、演技でもインタビューでも、“自分を表現する力”を高めてきたといえるのでしょう」