歴史は勝者によって作られる。我々はそれを知っているはずなのだが、「明治維新」と聞くと思考停止してしまうようだ。維新から今年で150年。著書に『明治維新という幻想』がある森田健司氏がこれまでタブーとされてきた歴史の真実を暴く。
* * *
日本人はみな、明治維新は行き詰まっていた幕府をいわゆる維新志士たちが倒し、日本を刷新した革命であると教わってきた。だが、真実は下級の藩士が体制を覆すために起こした軍事クーデターであり、持たざる者が持つ者に対抗すべく行った武力蜂起である。それは維新後の志士たちの生活を見ると明らかだ。
例えば大久保利通は私欲が少なく、金銭欲のない人間と言われているが、明治8年(1875年)に現在の内閣府のあたりに豪勢な洋館を建てている。下級藩士であった彼らの生活はまさに成り上がり、一変したのだ。
それを正当化するためにクーデターを美談化し、新しい日本へ導いた革命だと喧伝したのである。
維新志士たちは非常に潔癖な人間で道徳的にも優れていたというイメージを抱く日本人は多いだろう。しかし、史料を調べるとまったく異なることがわかる。
明治8年時点で一等官の月給は500円から800円という記録が残っている。一等官の月給を現在の貨幣価値に換算すると750万円から1200万円になる。一等官に就いていた人々とは島津久光や岩倉具視、大久保利通、大隈重信などの明治政府の首脳たちだ。当時の巡査の初任給が4円だったから、いかに彼らの月給が突出していたかがわかる。さらに裏金も懐に入った。常に賄賂を要求していたと言われる大隈重信などはこの何倍もの額を手に入れた可能性がある。
私利私欲を剥き出しにしていたのが明治政府首脳の真の姿である。
【PROFILE】森田健司●1974年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程単位取得退学。博士。専門は社会思想史。著書に『西郷隆盛の幻影』、『明治維新という幻想』(ともに洋泉社)などがある。
※SAPIO2018年3・4月号