物語の舞台を薩摩から江戸に移したNHK大河ドラマ『西郷どん』。幕末のスペクタクルや登場人物たちの恋愛模様とともにシビアなお金の話が描き出されている。
鈴木亮平演じる若き日の西郷吉之助(のちの隆盛)は、薩摩の貧しい百姓の娘・ふき(柿原りんか)が借金のカタに身売りされるのを何とか阻止しようと奔走した(第2話)。奮闘もむなしく、家族を助けるためにふきは売られていくが、その“対価”はいかほどだったのか。歴史作家の井手窪剛氏が解説する。
「江戸時代の風聞を集めた『よしの冊子』という書物には、12歳の女児が吉原に18両で売られたと記されています。
“レート”が常に変動する上に武家は金貨を、商人は銀貨を使っていた。幕末の混乱で貨幣の価値は年々下がっていたので、大まかにしか現代の価値に換算することができませんが、米の値段を基準にして、江戸後期の1両がおよそ12万円ぐらいになります。そこから換算すると、216万円ということになります。
また、文化年間の『世事見聞録』では越中や越後の貧乏な農家が、生活のためにわずか3両(=36万円)、5両(=60万円)で娘を差し出す話が出てきます」
江戸入りを果たした吉之助は同志である大山格之助(綱良・北村有起哉)に、品川宿の遊郭に連れて行かれ、成長したふき(およし・高梨臨)と再会する。ふきは紆余曲折を経て品川宿で飯盛女になっていた。そんなふきを身請けしようとしているのが、松田翔太演じる一橋(徳川)慶喜だった。
「当時、『吉原細見』というガイドブックがあり、太夫と遊ぶなら1両2分(=18万円)、その下のランクの散茶女郎なら3分(=9万円)とあります。
こうした遊びにはルールがあって、3度は通わないと“その先”には行けなかった。目当ての太夫がお付きの女性を10人くらい連れている。その宴会代をすべて払うため、120両(=1440万円)くらい注ぎ込んだという記録もあります」(同前)
※週刊ポスト2018年3月23・30日号