西日本新聞・九州エリア版の2月16日朝刊にこんな広告が掲載された。
〈今は、別府行くより、草津行こうぜ。〉
広告主は大分県別府市。1月に草津白根山が噴火したことで、観光客が減ってしまった群馬県の草津温泉に対する、ライバルである別府温泉からのエールだったのだ。
別府と草津のように、かつてはライバルだった温泉地同士が、手を取り合うといった事例が増えている。たとえば、大分県の由布院温泉と熊本県の黒川温泉は、サービスの連携を始めた。温泉地の実情に詳しい経営コンサルタントの高井尚之さんが語る。
「『旅の扉と旅の鍵』という、由布院温泉が行う宿泊者向け特典を黒川温泉にも広げました。専用カードを提示すると、施設内で足湯などのサービスが受けられるものです。熊本地震のあと、黒川温泉の関係者が『うちは暇だけれど、向こうはどうだろう』と様子を見に来たことが連携のきっかけでした」
ホテルが建ち並び観光客がバスで乗り付ける別府と、個人宿が中心の由布院の間でも、互助が始まっているという。
「別府も由布院も大分県内ですが、山を挟んで反対側にあります。そこで、『2泊するなら、そのうち1泊は、ぜひ山の向こうへどうぞ』という訴求をしています。歴史をひもとくと、個人経営の由布院は別府のような大型開発ができなかった過去があり、別府は団体客に訴求、由布院は個人客に訴求という違いがありました。かつては”由布院の宿は別府になるな(大型化するな)”といった意識で、お互い別の道を歩んでいたのですが、近年は”ひとつの温泉郷”として手を取り合うようになりました」(高井さん)
その背景にあるのが、少子高齢化と外国人訴求だ。
「狭い島国で共存共栄しようと、関係者が気づき始めているのです。数々の災害を経験し、被災地から遠く離れた土地でも、外国人から見ると同じ日本。遠方でも風評被害を受けることがあることもわかり、みんなで助け合う気風が芽生えてきました」(高井さん)
各地の取り組みは、全国に点在する温泉地をつなぎ、「温泉大国ニッポン」を海外へアピールすることにもつながりそうだ。
昨今、インスタグラムには、#bluelagoonというハッシュタグの付いた写真が何万枚もアップされている。これは、北大西洋の火山国・アイスランドにある巨大な露天風呂。ここで写真を撮り、アップするために世界中から観光客が訪れているという。高崎経済大学地域政策学部准教授の井門隆夫さんが話す。
「日本の温泉旅館にも、これを手本にしようという動きがあります。全国の温泉の女将たちが、アイスランドに視察に行っていますよ」
訪日外国人が増えている今、温泉もまた、彼らにより魅力的に映るよう、努力が必要な時代になっているのかもしれない。
※女性セブン2018年3月29日・4月5日号