国内

わが国の女性専用車両は人権や正義の問題をクリアできていない

トラブルの火種消えず定着しない女性専用車両

 2月下旬に複数の首都圏鉄道で女性専用車両に反対する男性たちが女性専用車両に乗り込み、降ろそうとする女性客や駅員とトラブルになる事件が相次いだ。わが国の女性専用車両はすでに定着したかに見えたが、トラブルの火種は消えていないようだ。“組織学者”として知られる同志社大学政策学部教授の太田肇氏が、改めて女性専用車両の「正義」を問う。

 * * *
 首都圏にかぎらず、私鉄でも公営の地下鉄でも女性専用車両の設置は進んでいる。専用車両のおかげで女性が快適に、安心して乗車できるようになった。そして大半の男性もそれを抵抗なく受け入れている。

 しかし、公然と「痴漢被害を防ぐため」と口にしたとたん、火種がくすぶりだす。

 そもそも特定車両だけを「女性専用」にしたからといって、痴漢の被害をなくせるわけではない。とりわけラッシュ時などは、混み合った普通車両に乗車する人たちが痴漢に遭う危険にさらされている。痴漢の被害に遭いたくなかったら女性専用車両に乗れ、というような意識をもたれたら女性にとっても迷惑だ。

 そして、より本質的な問題は女性専用車両からの男性排除を社会が正当化することによって、男女差別をなくそうという社会運動が理論的根拠を失い、せっかく積み重ねてきた男女平等、男女共同参画推進の努力に水を差すのではないかということだ。

 なぜなら、「男性は痴漢をする可能性が高いから乗せない」というのは、「女性は早期に退職する可能性が高いから責任ある仕事を与えない」というのと基本的に同じ理屈であり、「統計的差別の論理」そのものだからである。

 当然ながら「女性は早期に退職する」と決めつけられないのと同様に、「男性は痴漢をする」と決めつけられない。実際、痴漢をする男性はごく、ごく一握りである。だからこそ、統計的根拠があるからといって差別することは許されないのである。長い歴史のなかで血のにじむような努力によって解消され、あるいは解消されつつある数々の不条理な差別は、その多くが「統計的差別の論理」に基づくものだということを忘れてはならない。

 付け加えるなら、それは別の問題にも波及する。「男性は痴漢をするかもしれない」という、男性に対する一種のラベリング(レッテル貼り)や、強引な男性客排除が男性一般の感情的な反発を買い、男女一体となって痴漢をなくそうという機運を鈍らせるのではないかと懸念されるのだ。

 いうまでもなく痴漢から女性を守ったり、痴漢をつかまえたりするためには男性の積極的な協力が欠かせない。その意味でも、ラベリングにより男性の尊厳を傷つけることは得策ではなかろう。

関連記事

トピックス

沖縄を訪問された愛子さま(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
天皇ご一家が“因縁の地”沖縄をご訪問、現地は盛大な歓迎ムード “平和への思い”を継承する存在としての愛子さまへの大きな期待 
女性セブン
TBS田村真子アナウンサー
【インタビュー】TBS田村真子アナウンサーが明かす『ラヴィット!』放送1000回で流した涙の理由 「最近、肩の荷が下りた」「お姉さんでいなきゃと意識しています」
NEWSポストセブン
「ONK座談会」2002年開催時(撮影/山崎力夫)
《追悼・長嶋茂雄さん》「王・長嶋・金田座談会」を再録 2000年の夢のON対決にミスターが漏らした「ボクはもう御免。ノーサンキューだね。2度とやりたくありません」の真意
週刊ポスト
「寂しい見た目」の給食に批判が殺到(X /時事通信フォト)
《中国でもヤバい給食に批判殺到》ラー油かけご飯、唐揚げ1つ、「ご飯にたまご焼きだけ」と炎上した天津丼…日本・中国で相次ぐ貧相給食の背景にある“事情の違い”
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問している佳子さま(写真/アフロ)
佳子さま、外交関係樹立130周年のブラジルを公式訪問 子供たちと笑顔でハイタッチ、花柄のドレス姿も 
女性セブン
来来亭・浜松幸店の店主が異物混入の詳細を明かした(右は来来亭公式Xより)
《“ウジ虫混入ラーメン”が物議の来来亭》店主が明かした“当日の対応”「店舗内の目視では、虫は確認できなかった」「すぐにラーメンと餃子を作り直して」
NEWSポストセブン
家出した中学生を自宅に住まわせ売春させたとして逮捕された三ノ輪勝容疑者(左はInstagramより)
《顔面タトゥーの男が中学生売春》「地元の警察でも有名だと…」自称暴力団・三ノ輪勝容疑者(33)の“意外な素顔”と近隣住民が耳にしていた「若い女性の声」
NEWSポストセブン
田中真一さんと真美子さん(左/リコーブラックラムズ東京の公式サイトより、右/レッドウェーブ公式サイトより)
《真美子さんとの約束》大谷翔平の義兄がラグビーチームを退団していた! 過去に大怪我も現役続行にこだわる「妹との共通点」
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《「来来亭」の“ウジムシ混入ラーメン”動画が物議》本部が「他の客のラーメンへの混入」に公式回答「(動画の)お客様以外からのお問い合わせはございません」
NEWSポストセブン
金スマ放送終了に伴いひとり農業生活も引退へ(常陸大宮市のX、TBS公式サイトより)
《金スマ『ひとり農業』ロケ地が耕作放棄地に…》名物ディレクター・ヘルムート氏が畑の所有者に「農地はお返しします」
NEWSポストセブン
6月9日付けで「研音」所属となった俳優・宮野真守(41)。突然の発表はファンにとっても青天の霹靂だった(時事通信フォトより)
《電撃退団の舞台裏》「2029年までスケジュールが埋まっていた」声優・宮野真守が「研音」へ“スピード移籍”した背景と、研音俳優・福士蒼汰との“ただならぬ関係”
NEWSポストセブン
清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン