日本には高校野球の監督が4000人ほどいる。その大部分が高校の教師だが、この春、選抜高校野球大会に9年ぶり9度目の出場を、就任3年目で成し遂げた慶應義塾高校の森林貴彦監督は、慶應義塾幼稚舎で小学生を教えながら、母校の指揮を執る異例の監督だ。同校は3月28日、滋賀・彦根東と初戦を迎える。日本唯一のアマチュア球児向けフリーマガジン「サムライベースボール」発行人の古内義明氏が、東京・広尾にある幼稚舎を訪ね、二刀流監督の野望を訊いた。
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──森林監督のように小学校の先生で、しかも高校野球の監督はいないと思いますが?
森林監督:私もいないんじゃないかな、と思っています(笑)。
──「お受験の最高峰」と言われる幼稚舎の小学生はどんな子供たちですか?
森林監督:世間では何か特別なイメージで言われていますよね。確かに親の平均年収はやや高いとは思いますが、他の子たちとそんなに変わりません。家に帰ればiPadを触るとか、アマゾンで買い物するのは昔と変わっていますが、頭の中の精神構造はそんなに変わらないです。クラスの中にはだらしない子もいるし、忘れ物ばかりするような子もいるし、給食のときに食器を落として割る子もいるし、いたずらっ子もいます。開門の時刻を狙って、とにかく早く来て友達と遊びたいとか。なんでもやる気に満ちていて、目の前のことを一生懸命やるような子たちです。
──どんな経緯で幼稚舎の先生に?
森林監督:大学生の時、慶應高校の上田誠前監督の元で大学生コーチをやらせてもらって、その4年間が凄く充実していました。野球は大学で区切りをつけて、NTTで3年間サラリーマンをやりましたが、「高校野球に携わりながら後輩の指導をしていた頃に勝るものはない」と思い始めていました。結婚もしていなかったし、家業を継ぐような仕事もしていなかったから、悩まずに決断できました。筑波大学大学院に通って中高の体育の免許を取って、公立や私学で監督をしてから、最終的には母校に帰りたいなと思っていた時期に、幼稚舎の体育教員の募集がありました。
中高の免許があれば、小学校の体育、音楽、理科は教えていいのですが、担任はもてません。それで1年目に体育を教えながら、明星大学通信課程で小学校の免許を取って、2年目から担任を持ち、今年は3年生のクラス担任をしています。
──幼稚舎の特徴は?
森林監督:基本的に6年間は担任も変わらずクラス替えもないので、卒業してからもずっとお付き合いが続きます。中高大になっても、子供たちが時々帰ってきて色々と話しをしたり、クラス会をやったりしています。1クラス36人で今回が3クラス目ですから、これで108人分の人生を楽しめるというか、彼らが成長していく姿を見守れるので、楽しさはあります。
やりがいのある幼稚舎の先生と高校野球の監督の両方をやらせてもらっているのは、贅沢といえば贅沢ですね。
──スーツ姿の先生がユニホームで高校野球の監督とは、子供たちはどんなリアクションをするのでしょうか。
森林監督:もう3年生なのでよく知っていますし、夏の大会とかも親と応援にくる子も多いです。子供たちからは、「もりば」というあだ名で呼ばれています(笑)。球場のフェンス沿いまで来て、名前を絶叫しています。秋の関東大会の時には教室の窓に、「甲子園」と書いた、てるてる坊主をいっぱい作ってくれたりもしました。その大会が甲子園に繋がっていることも親経由でなんとなく知っていて、今回の選抜発表も喜んでくれました。子供たちも、「春休みは絶対に応援に行く!」と言っているし、塾高プラス幼稚舎の大応援団がアルプス席で見られると思いますね。