3席目は一転して古典で『芝浜』。「三木助~談志」型の演出だが主人公は勝五郎ではなく金太、拾う金は50両。冒頭「芝三縁山増上寺は徳川家の菩提寺で……」と芝の魚河岸を説明してから夫婦の会話に入り、魚屋が家を出て河岸に着くまでの経路を道中付けのように語るのが印象的。
3年後の大晦日、真実を打ち明けた後で女房に「お詫びのしるしだから」と酒を勧められた亭主が、除夜の鐘を聴きながら「俺な、お前と一緒になるとき大家さんに言われたんだ。『金公、いい女房もらったな、年上の女房は金の草鞋を履いてでも探せっていうくらいだからな』って。そのときはわからなかったけど、今ようやくそれがわかったよ。俺は幸せ者だ」としみじみ言うのは小朝ならではのいい演出だ。
全編軽やかなトーンで笑いを交えて演じた『芝浜』も良かったが、やはり前半の「菊池寛落語」の印象が強く残った。小朝の真骨頂は親しみやすい語り口の地噺にこそある。「菊池寛が落語になる日」は、その持ち味を存分に活かした好企画だ。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年3月23・30日号