五輪4連覇、国民栄誉賞も授与された伊調馨に対する栄和人・日本レスリング協会強化本部長からのパワハラ疑惑は、予想以上の長期的な騒動となっている。長引いている原因のひとつに、栄氏が疑惑について「そんなつもりはまったくない」と言いつつ、謝罪らしい言葉がないまま休養だけを明らかにし、強化本部長という役職の進退について言及しないこともあるだろう。「強化本部長をすぐに辞していれば、これほど騒ぎが大きくならなかったのでは」という声も聞こえてくる。なぜ、栄氏は強化本部長で居続けることを選んだのか。
栄氏からみて、大学の後輩にあたるというレスリング関係者は「権力のある肩書きが大好きだから」と話す。
「若い頃、栄さんが話していた将来の夢は、出身地の町長になることでした。お金と権力が好きなのも昔からで、それは今も変わりません。もっとも、奄美大島にある出身地の町は市町村合併で奄美市になったから、町長は諦めたかもしれませんね」
栄氏は現在、男子のフリースタイル、グレコローマン、女子の3種目の強化を統括する立場にある。3種目すべてのトップに立つのは栄氏の念願で、2008年北京五輪が終わった頃から「これだけ勝ってるんだから、俺が(3種目を統括する強化委員長を)やってもいいよね」と取材陣に漏らすほどだったが、その地位を手に入れたのは2014年4月だった。
なぜ、栄氏が3種目の強化トップに就くのが遅れたのか。前出の関係者は言う。
「女子の指導にあれほど熱心に取り組んで結果を残したことは凄いことですが、やっぱり女子しか指導していないので、そのぶん評価が落ちます。本当は女子の強化トップだってまかせたくないです。最近ではなくなりましたが、国際大会で試合後に選手を殴って、外国のコーチから『なんてことをするんだ! 信じられない』と言われたこともあります。すぐに暴力をふるったり、金の話をすぐに持ち出したりするから、男子からも女子からも信頼される人ではないんですよ」
とはいえ、女子選手をチャンピオンにする手腕は認めざるを得ないという。
「感情が伴わないとパフォーマンスが良くならないことが多い女子選手に、とことんつきあえる指導者は他にいないでしょうね。そして、1日に何試合も続いてチャンピオンになるところまで選手の集中力が途切れないように保つノウハウももっている。そういう意味では優秀な指導者だといえます。ただ、そのやり方に問題があるので、栄さんの指導法を真似ようという人は海外にもいないんです」