別れは寂しいものだが、同時に愛の深さを知る絶好のチャンスでもある──。別れの季節・春ならではの35才女性によるエピソードを紹介します。
「おばあちゃんのおにぎりは世界一! また作って」
絶妙の塩加減で、口に入れるとホロッとくずれる。幼い頃、私は一緒に暮らすおばあちゃんの握るおにぎりが大好きで、毎日のようにこうねだっていました。
しかし、中学・高校を経て、友達との外食が楽しくなると、おばあちゃんのおにぎりは、食べなくなっていきました。
大学受験のため、ひとりで上京することになった時、おばあちゃんは「持って行き」と、ハンカチで包んだおにぎりを私に差し出してくれました。でも、その包みは、ずっしりと大きく、やぼったく見えました。
「東京にはおいしいものがいっぱいあるんだからいらない」
私はそう言って突き返し、そのまま別れました。試験で数日ホテルに宿泊し、家に帰ると、珍しく家族全員が家におり、その表情は一様に曇っています。実は、おばあちゃんが入院したというのです。
私が上京した日、おにぎりを作って送り出した後、体調が悪いと病院へ行き、そのまま入院することになったそうです。本当はその数日前から具合が悪かったようですが、私の受験のお守りに、おにぎりを持たせようと、がまんしていたそうです。
それなのに、私はそれを受け取らなかった──。
私はおばあちゃんに謝りに行きました。笑顔で許してくれたおばあちゃんは、その後数日して亡くなりました。
今でも時々、あのおにぎりを無性に食べたくなり、教わった通りに作るのですが、まだまだおよびません。私もいつか、子供が忘れられないおにぎりが作れるようになりたいです。(35才・会社員)
※女性セブン2018年4月12日号