グラビア写真界の第一人者、渡辺達生氏(69)が還暦を迎えてから力を注いでいるのが、“人生最期の写真を笑顔で撮ろう”とのコンセプトで立ち上げた『寿影』プロジェクトだ。『寿影』とは、渡辺氏による造語で、商標登録されている。葬儀で使用される『遺影』の“遺”の文字には暗くて辛気臭いイメージがあると感じていた渡辺氏は、代わりにこれまでの人生を祝う意味を込めて、美しい響きを持つ“寿”を選んで命名した。
渡辺氏は、自然な笑顔を引き出すべく、撮影する人に「一品」を持ってきてもらって、それにまつわるエピソードを聞きながら撮影する。平泉成(73)が持ってきたのは、肌身離さず持ち歩く、25年前に撮影した家族写真だ。
俳優一筋54年。いぶし銀の魅力と味のある演技で、善も悪も器用に演じる名脇役。だが、その地位を築くまでの俳優人生は、決して順風満帆ではなかった。
「デビューは宝くじに当たったようなもの。現実は描いた夢からはほど遠く、何度も迷い方向転換してきた。今があるのは優秀だからじゃなく、ひとつの仕事に打ち込んだ結果です。長くやった分、プラスなだけだよ」
プライベートでは良き父親であり夫。そっと財布に忍ばせている家族写真がそれを象徴する。
「25年前に初めて写真館で撮った1枚です。持ち歩くのは家族が大切という意味だけど、僕にとっては当たり前のことですね」
この世を去る同世代俳優も増える中、残りの人生を意識するが、敢えて普通に仕事をこなし、妻との時間を増やしたいと語る。