芸能

岩下志麻が述懐、小津安二郎監督の「もう一回、もう一回」

大女優が小津監督の思い出を語る

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、女優・岩下志麻が役者になったきっかけ、映画『秋刀魚の味』のヒロインとして小津安二郎監督に受けた演出について語った言葉をお届けする。

 * * *
 岩下志麻は、今年で女優人生60年になる。それに合わせて、筆者が二十時間以上にわたって岩下に役者生活の全貌をインタビューした新刊『美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道』が発売された。今回と次回は、その中の岩下の印象的な「言葉」をお送りする。

 今でこそ大女優の代名詞的存在の岩下だが、その道に入ったきっかけは偶然だった。高校時代に受験勉強で挫折した際、役者をしていた父・野々村潔に勧められ、「気分転換のよう」な状況で1958年にテレビドラマ『バス通り裏』(NHK)に出演したのがキャリアのスタート。その後、1960年に松竹に所属して映画デビューすると、主にメロドラマを中心にヒロイン役を演じていく。それでも、個々の現場では全力で仕事しながらも、役者としては「演じる」ということに大きなモチベーションを持てないままでいた。

 そんな岩下に転機が訪れる。1962年、巨匠・小津安二郎監督の映画『秋刀魚の味』のヒロインに抜擢されたのだ。小津の役者への演出法について、岩下は次のように振り返っている。

「先生のリズムに合わないと駄目でした。例えばワイシャツにアイロンをかける場面でも、一つの方向に二回ゆっくりめにかけて、反対はそのスピードの二倍の速さで三回かけて、ちょっとアイロンを置いたら左手でうなじ上げてとか。全て細かくご指導なさるんです。

 でも、そうなると、私の動きは段取りになっちゃうんです。その通りに動かないといけないって意識してしまいますから。ですから先生は自然体になるまで稽古なさる。その時は50から60回はテストしています。

 アイロンの動き方が斜めだったりすると駄目で、まっすぐからとか言われるものですから、一つ一つの動きを意識してしまって、コチコチになって自然体じゃなかったんだと思います。本当に何度も何度もテストしましたね」

関連記事

トピックス

中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波も(マツコ・デラックス/時事通信フォト)
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波、バカリズム脚本ドラマ『ホットスポット』配信&DVDへの影響はあるのか 日本テレビは「様々なご意見を頂戴しています」と回答
週刊ポスト
大谷翔平が新型バットを握る日はあるのか(Getty Images)
「MLBを破壊する」新型“魚雷バット”で最も恩恵を受けるのは中距離バッター 大谷翔平は“超長尺バット”で独自路線を貫くかどうかの分かれ道
週刊ポスト
もし石破政権が「衆参W(ダブル)選挙」に打って出たら…(時事通信フォト)
永田町で囁かれる7月の「衆参ダブル選挙」 参院選詳細シミュレーションでは自公惨敗で参院過半数割れの可能性、国民民主大躍進で与野党逆転へ
週刊ポスト
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
「フォートナイト」世界大会出場を目指すYouTuber・Tarou(本人Xより)
小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」に批判の声も…筑駒→東大出身の父親が考える「息子の将来設計」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
米国からエルサルバドルに送還されたベネズエラのギャング組織のメンバーら(AFP PHOTO / EL SALVADOR'S PRESIDENCY PRESS OFFICE)
“世界最恐の刑務所”に移送された“後ろ手拘束・丸刈り”の凶悪ギャング「刑務所を制圧しプールやナイトクラブを設営」した荒くれ者たち《エルサルバドル大統領の強権的な治安対策》
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン
中居正広氏とフジテレビ社屋(時事通信フォト)
【被害女性Aさん フジ問題で独占告白】「理不尽な思いをしている方がたくさん…」彼女はいま何を思い、何を求めるのか
週刊ポスト
食道がんであることを公表した石橋貴明、元妻の鈴木保奈美は沈黙を貫いている(左/Instagramより)
《食道がん公表のとんねるず・石橋貴明(63)》社長と所属女優として沈黙貫く元妻の鈴木保奈美との距離感、長女との確執乗り越え…「初孫抱いて見せていた笑顔」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
NEWSポストセブン