1970年代に丘陵地を切り開いて開発された神戸市北東部のニュータウン・筑紫が丘地区。街路樹の葉がすっかり枯れ落ちた昨年暮れ、閑静な住宅街を白いミニバンが走っていた…。一見すると、どこにでも走っている普通のミニバンだが、いざ乗り込むと大きな違いに気づく。運転席にドライバーは座っているものの、ハンドルを握っていない。それでも交差点に差しかかると、ハンドルが勝手にくるくると回転し、車はスムーズに左折した。
そしてニュータウン内を最高時速20kmのゆっくりしたペースで走り回った。車のボディーに〈AI運行バス 自動運転サービス実証〉という文字が表示されている通り、この車はスマホで受けた乗車リクエストをもとに、最適なルートをAIが自動計算して走行しているのだ。
利用した89才女性が笑顔で語る。
「スーパーからの帰り道、食料品を持って坂道を上るのはしんどかった。普段使っているバスより自宅の近くまで送迎してくれる自動運転バスは、とても便利。スピードはゆっくりやけど、別に急ぐこともないからね」
筑紫が丘地区では、昨年11~12月にわたって自動運転バスの実証実験が行われた。この実験に参加した「みなと観光バス」の松本浩之社長が解説する。
「この地区には、約2000世帯6000人が暮らしていますが、オールドタウン化が進み、すでに住民の4割が65才以上、5年後には半数を超えると見込まれています。その状況下で公共交通の縮小・撤退が課題となっていたため、住民の移動課題を解決するため、この実験が行われました。今回の実験では、主に60~80代のかたが利用してくださいました。多い日には1日60回の利用があるなど、手応えを感じています」
◆770兆円市場に“逆風”
このような“自動運転化”の実現に向けての研究・実験は、国内外問わず、世界中で行われている。だが、そんななか、痛ましい事故が起こってしまった。3月18日、米国アリゾナ州で配車サービス大手「ウーバー・テクノロジーズ」の自動運転車が、自転車を押して横断していた49才の女性に突っ込み、死亡させた。
「自動運転モードで走行中だった車は減速することなく、時速65キロで女性を弾き飛ばした。夜間で照明が暗かったため、障害物を検出するシステムが機能しなかったなどといわれていますが、原因はまだわかっていません」(米紙記者)