学力や運動能力と並んで子供たちが身につけるべき能力が「コミュニケーション能力」だ。現に文部科学省は「コミュニケーション教育推進会議」を設置して教育現場でこの能力を育むことを目指すが、実はそれを支えてきたのは部活というシステムだ。
「部活動の中で、部員同士が協力し合って目標に到達するプロセスから学ぶことは多い。部活動という“学び場”が失われることは、子供たちのコミュニケーション能力を育む大きなツールを手放すことになるわけです」(島沢氏)
◆非行防止の面もあったが…
そして、最も心配されるのは、部活がなくなることで「空白の時間」が生じて、“帰宅部”となった子供たちが放課後を持て余すことだ。
「部活でエネルギーを発散することで、非行の防止につながっている面もある。部活がなくなっても裕福な家庭の子は塾や習い事に行けるが、そうでない子は時間を持て余してゲーム漬けになったり、街を徘徊したりということも起こりうる」(元小学校教員で教育評論家の親野智可等氏)
部活廃止は子供たちだけの問題ではなく、母親らにとっても「死活問題」だ。都内の50代母親が言う。
「息子は中高のテニス部に育ててもらったようなもの。夫婦共働きだったため、放課後は部活の先生に任せっぱなしでした。また、上下関係に厳しい部活だったから礼儀や先輩とのつきあい方なども学ぶことができた。家庭では教えられないことばかりで、もし部活がなかったらと思うとゾッとします」
部活がなくなれば、新たなスターが生まれる機会も減る。
「部活のような活動がまったくなくなると、スポーツや芸術と接する機会が減り、せっかく才能を持っている子供がいても埋もれてしまうでしょう。授業以外の活動によって花開く才能もあるんです」(親野氏)
たとえば今シーズン、メジャーリーグから日本に復帰した巨人の上原浩治投手(43才)は、中学時代に陸上部、高校・大学は野球部に所属。世界一にも輝いたことのある大投手の上原だが、実は高校時代は“補欠”の無名選手だった。
大学受験にも失敗して、浪人して大学へ進学。大学でも野球を続けたことで、ようやく才能が開花したのだった。もし部活がなくなれば、上原投手のような大器万成型のスターは今後誕生しなくなるだろう。
もちろんプロになれなかったとしても、これまで述べたように部活で人間的に成長し、一生の友人を得るケースは多い。だからこそ、厳しい逆風のなかでも部活動を残そうと奮闘する教員は少なからずいる。
サッカー日本代表の長友佑都選手の恩師・井上博先生が言う。