音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、改作落語で知られる立川談笑による『らくだ』改作と後日談における、談笑ならではのロジックの存在についてお届けする。
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立川談笑と言えば改作落語。たとえば2月14日の「談笑月例独演会」(東京・博品館劇場)で演じた彼の『鰍沢』はこういう噺だ。
吉原の月の兎花魁は平吉という客に無理心中を仕掛けられたが、何とか逃れて甲州の山奥で猟師の熊蔵と結婚し、お熊と名乗って平穏な日々を過ごしていた。ところが大雪の晩、道に迷った旅人を迎え入れてみると、執念深く月の兎を探していた平吉で、この男が熊蔵を殺そうと玉子酒に毒を入れ、熊蔵はそれを飲んでしまう。お熊は、無理やり江戸に連れ戻そうとする平吉に銃を向けて追い出すが、平吉は大声で「月の兎がここにいるって役人に届けてやる!」と捨て台詞。それを聞いたお熊は銃を持って男を追う……。
本来の『鰍沢』とは正反対の展開だが、談笑版のほうがより人情噺らしく、胸に迫る。
この談笑が古典の「外伝」を創作する落語会が世田谷区の成城ホールで不定期開催されている。題して「談笑『落語外伝』名作落語~それまで・そのあと・スピンオフ~」。2月20日に行なわれた第4回のテーマは『らくだ』で、談笑は前半に『らくだ』を演じ、後半で『らくだ後日談』を披露した。ちなみにこの公演、本来は1月22日開催だったが、当日朝から東京は大雪で交通網に大きな影響が予想されたため、午後の早い段階で延期を決定したものだ。
談笑の『らくだ』自体も改作で、ラストに「こう来たか!」と唸らされる見事なオチが用意されている。だがこの日彼が演じた『らくだ』にはそれがなく、オーソドックスに「魚屋へ行ってマグロのブツ持ってこい! 寄越すの寄越さないの言ったら、かんかんのうを踊らせろ」でサゲた。後半の「後日談」へとスムーズに繋げるためだ。